小説10 | 高木豊オフィシャルブログ「感動の裏には努力が存在する!」Powered by Ameba

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次の日、手術が行われた。
勇介に、病名の事は知らせず、勇介本人もしつこく知ろうとしなかった。
なんて言おうか迷っていた佳子には、ホットした気持ちもどこかであったが、その事が返って不気味に重く感じられた。
手術室に向かう前、勇介は、「これで美味しいビールが飲める様になるかな」
そう言い残し闘いに向かった。
外は、雨から雪に変わろうとする霙になっている。
佳子は、子供達にメールを送った。
「今、手術が始まりました」
「お父さんには知らせてませんが、癌が見つかりました」
「お母さんだけでは、この病とは闘えないかもしれません、あなた方も力を貸して下さいね」
と書いて送ろうとしたが、最後の下りだけはあまりに素直すぎるし、弱気になってると感じ書き直した。
「お母さんが一緒に癌と闘うので、余計な心配はいりませんよ」
そう気を取り直し、自分自身を鼓舞するかの様に戒めた。
最近は、何でも情報を得る事が出来る。
佳子も昨晩、寝る事など出来ず大腸癌の事をネットで調べてみたが、あまり希望が持てるような事は記載されておらず、とうとう朝まで眠る事は出来なかった。
手術室の明かりが消える。
「え、早いなぁ」
「もう終わったのかな」
早ければ早いだけ心配になり、遅ければまた遅いで心配になるものだが、
佳子が想像してたよりは、相当早く手術は終わった。
早く終わる事の根拠と、それによる知識も持ち合わせている訳ではなかったが、佳子は胸騒ぎを押さえる事が出来なくなっていた。
担当医の林が、眉間にしわを寄せ、こっちに歩いてくる。
昨日まで、手術に向かう前とは、明らかに林先生の表情が違う。
「奥さん、手術はしませんでした」
「詳しい事は、後ほどお話しします」
そう言って、林の背中は遠のいていった。
「転移か?」
不吉な予感と言うよりも、昨晩ネットで見た薄っぺらい知識がそう感じさせる。
癌には、二種類あって、転移する癌と、そうでない癌があるらしい。
そこに留まっていてくれるものであれば、切除すればいいらしいが、転移するものは手に負えない事がほとんどだと・・・!
病室に勇介が帰って来た。
麻酔が効いてるらしく、よく眠っている。
主人の寝顔を見ていると、こんなに深い眠りに入る事など、ここ最近では見た事が無かった。
普段は、少しの物音でもすぐ目が覚める勇介を知ってるだけに、佳子は少しの安心感をおぼえるのだった。
いつの間にか佳子も、勇介の側で眠りについていた。
佳子は、夢を見ていた。
二人で、旅行に行ってる。
「どこの温泉だろう?」
主人が美味しそうにビールを飲んでいる。
「おぅ、美味いなぁ~」
そんな夢の途中に、肩を叩かれた。
どのくらい寝ていたのだろうか?
夢の中だけど、勇介の元気な姿を見る事が出来て幸せな気分だった。
看護師さんだ。
「林先生の話があります」
「分かりました」
どんな事になるんだろう、昨日より確実な話になる事は間違いない。
夢の中だけど、勇介の元気な姿に、佳子は勇気と力を貰ったようであった。
「奥さん、先ほども言いましたが、手術は出来ませんでした」
「正確に言うと、しても施しようがありません」
「転移が見つかりました」
佳子の一番恐れていた事が現実となった。
佳子は、夢の中の勇介を必死に探すが、その姿はもう現れる事はなかった。


久しぶりに書いてみました。
どうでしょうか?