佳子は、高樹からの連絡を受けると、子供達にメールで知らせる事にした。
勇介と佳子との間には、二人の子供がいる。
長男の勇一は、父である勇介の背中を追って野球をしていた。
大学も同じ大学に進み、プロを目指したが伸び悩み、社会人野球へと進んだ。
長女友美は、地元で就職し、今もまだ両親と同居している。
「お父さんが、入院する事になりました。」
「精密検査をするようです」
「詳しい事が分かったら、連絡しますね」
「寂しがりやのお父さんだから、メールでもしてあげてね」
メールを打ちながら、佳子は泣いていた。
まだ何も分からないと書いているのに・・・!
年明けから今日までの、勇介を思い出すとただ事ではすまない事は、佳子が一番分かっていたからだ。
翌朝、病院より先に佳子はグランドに顔をだした。
勇介の精密検査が始まっており、行ってもやる事が無く、高樹に挨拶する事にした。
会話は弾むはずも無く、重苦しい空気に包まれる。
全ては、検査の結果を待つしかなかった。
マネージャーの電話では、15時くらいに検査が終わると言う事で、その後、医者が面談したいと言ってる。
後5時間近くで、何らかの答えが出るのだ。
高樹は、練習に戻った。
ブルペンでは、小出が投げていた。
こんな寒い時期に、いい球を投げている。
勇介からも話を聞いていた。
小出を見てやってくれ、「今年のドラフト間違い無しだぞ」と言ってたのはまんざら嘘ではない。
「小出、あんまり飛ばすなよ」
「はい、大丈夫です。
「まだ、6割くらいで投げてますので」
これで6割?
それが本当なら、「間違いなくプロに行けるな」と高樹は思った。
野球を見て、集中してる方が、高樹には気が楽に感じる。
勇介の思いを受けてのコーチに、本来責任が重いのが本当だが、今回は集中出来る野球に感謝した。
「そろそろ15時だな」
妻の佳子は、病院で待機してる。
「さて、向かうか」
練習は、まだ終わっては無い。
守備コーチの阿部に後を任せ、用意されたタクシーに乗り込んだ。
病院に着くと、マネージャーの渋谷が出迎えてくれた。
「検査が終わり、監督は今寝ています」
「間もなく、面談です」
「分かった、おくさんは?」
「こちらです」
部屋に入ると、佳子は下を向き考え事をしているようだった。
部屋のドアがあいた。
「え~私が北川さんの検査をした、林です」
歳は、勇介と高樹くらいで、貫禄があり、風貌だけでも信用出来る感じの医者だった。
「隠してもしょうがないですから、単刀直入に申し上げます」
「大腸がんです」
佳子は一点を見つめ、高樹は下を向いた。
マネージャーの渋谷は、大粒の涙を流している。
時が止まった。