映画広告シリーズ ~ 東宝特殊技術陣が精魂を注いだ 『ゴジラ』 (昭和29年11月) | 高木圭介のマニア道

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~浮世のひまつぶし~

66年前(昭和29年)の11月3日に劇場公開された東宝映画 『ゴジラ』 (本多猪四郎監督)の新聞広告。



今となっては日本を代表するキング・オブ・モンスターだが、第1作とあって、まだ「ゴジラ」の名前すらも世間に認識されていない状態。

「銀座大通りに暴れ狂う怪獣ゴジラ!」

「日本を猛襲する水爆大怪獣!」

のコピーにもワクワクしてしまうが、中央右側の 「伝統を誇る東宝の特殊技術陣 (円谷英二・渡辺明・向山宏・岸田九一郎) が此の一作に精魂を注ぐ 」のコピー、そして彼らの名前左側に 「チームワークの素晴しさ!」 と記されているあたりが、通常の怪獣映画広告では、まず見られないテイストではないか? 昭和29年時点で、東宝特撮は、すでに「伝統を誇る~」と称されるべきモノだったことも分かる。

映画自体も話題と評判を呼び、興行的にも成功を収めたはずだ。昭和29年 という年は、同じく東宝で4月26日に 『七人の侍』 (黒澤明監督)が公開され、11月には『ゴジラ』と、後に海外にも大きな影響を与えた名作が公開された、「邦画史上最大の当たり年」 といっても良いだろう。

ところが年末の朝日新聞に掲載されていた映画批評などを見ると、この両作品はほとんど評価などされずじまい。『ゴジラ』に至っては名前すらも挙がっていない。

「秀作の少かった邦画」 の見出しとともに、「『二十四の瞳』と『女の園』を作った木下恵介監督の好調がきわっている」 「今年は、今井正、小津安二郎の両監督が一本も公開しなかったのも日本映画をさびしくした」 で終わり。

ゴジラ公開前に同紙に掲載されていた新作映画紹介コーナーでも、「企画だけの面白さ」 の見出しとともに、「アメリカでは『放射能X』などが作られたが、日本のは科学映画的なものに乏しい。かといって、空想的なおもしろさもない」 「とくに、ゴジラという怪獣が余り活躍せず、『性格』といったものがないのがおもしろさを弱めた」 「宝田明と河内桃子の二人の青年と娘の恋愛が、なにか本筋から浮いているが、これは構成上の失敗だった」 と、どこまでも手厳しい…。これが66年前の新聞に掲載されていた評価なのだ。

映画評論なんてものはアテにならない。そもそも娯楽物を評論、評価し、順位やら点数をつけることなんぞ「紙誌面を埋めること」以外に何の意味も持たない。自分が面白いと思ったモノを、堂々と面白がればいいのだ。