孫子の行軍篇には具体例を挙げながら敵情の観察の仕方も書かれています。
孫子は自軍を知って敵軍を知れば、敗けることはないと述べたように敵の情報を得ることは大事です。
「杖きて立つ者は飢うるなり。汲みて先ず飲む者は渇するなり。利を見て進まざる者は労るるなり。鳥の集まるは虚しきなり。夜呼ぶ者は恐るるなり。軍の擾るる者は将の重からざるなり。旌旗
の動く者は、乱るるなり。吏の怒る者は倦みたるなり。馬に粟して肉食し、軍に懸缻無くして、其の舎に返らざる者は、窮寇なり。諄諄翕翕として、徐に人に言る者は衆を失うなり。数々賞する者は窘しむなり。数々罰する者は、困るるなり。先に暴にして後に其の衆を畏るる者は、不精の至りなり。来たりて委謝する者は、休息を欲するなり。兵怒りて相い迎え、久しくして合わず、又た解き去らざるは、必ず謹みて之を察せよ。」
(兵士が杖をついて立っているのは、その軍が飢えて弱っているのである。水汲みが水を汲んでまっ先に飲むというのはその軍が飲料にかつえているのである。利益を認めながら進撃して来ないのは疲労しているのである。鳥がたくさん止まっているのはその陣所に人がいないのである。夜に呼び叫ぶ声のするのは、その軍が臆病でこわがっているのである。軍営のさわがしいのは将軍に威厳がないのである。旗が動揺しているのはその備えが乱れたのである。役人が腹をたてているのはその軍がくたびれているのである。馬に兵糧米を食べさせ、兵士に肉食をさせ、軍のなべ釜の類はみなうちこわして、その幕舎に帰ろうともしないのは、ゆきづまって死にものぐるいになった敵である。ねんごろにおずおずともの静かに兵士たちと話しをしているのは、みんなの心が離れているのである。しきりに賞を与えているのはその軍の士気がふるわなくて困っているのである。しきりに罰しているのはその軍がつかれているのである。はじめは乱暴にあつかっておきながら後にはその兵士たちの離反を恐れるというのは、考えがゆきとどかない極みである。わざわざやって来て贈り物を捧げてあやまるというのは、しばらく軍を休めたいのである。敵軍がいきりたって向かって来ながら、しばらくしても合戦せず、また撤退もしないのは、必らず慎重に観察せよ。)
敵情を知り、弱点があれば先手を取って攻めることが重要ですが、追い込まれて死にものぐるいになっている敵は危険です。
窮鼠猫を噛むとも言います。
古くは漢の韓信が背水の陣を敷いたり、日本の戦国時代には柴田勝家が水甕を自ら割って後戻りできないことを示して城から撃って出ています。
今川義元も追い込んだ織田信長に桶狭間の戦いで逆襲されています。
また、普段は部下たちを乱暴に扱って人の心が離れていった後に、部下の離反を恐れるのは愚かなことです。
敵情を知るというのは人の心情を知ることです。
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