副題: 天才たちのカオスな日常
藝大の美校に通う妻を持つ作家による藝大紹介本。入試はどんな様子で行われるのか、とか、どんな人達が受験し合格するのか、から始まり、卒業後はどうなっていくのか、まで、在校生への聞き取りと藝大への現地取材を元に書き綴られている。
私でさえ、全く受かる可能性など無いのにちらっと憧れていた藝大であるから、読んでいてとてもとても面白かった。特に学園祭の様子を読むと藝大に集う人々の才能と情熱と、ある意味での人の良さが爆発しているようであり、何とも羨ましくなった。
三浪、五浪は当たり前という入試の厳しさは凄いが、それを難なく突破してくる天才も居るのだし、その入試のためには藝大の先生に付いて基礎技術を磨いていなければまず受からないと言う。そうか、自分の息の掛かった者しか合格させないのか、と私などは思ってしまうのだが、著者によるとこれは藝大の先生が一番高度に教えられるからだと思われるようだ。
本の副題である「天才たちのカオスな日常」というのは、読んでみると美校のほうに当てはまるようだ。教える側は基本的技巧を教授しつつ、むしろ「一緒に芸術を模索する」という姿勢が強いようで、規則・規律でがんじがらめという状態とは程遠いように読めた。
反対に音校のほうは師弟関係が強く、きっちりとした鍛錬を積んで卒業していくらしい。それでも途中で自らに見切りを付け芸術を諦める割合も相当あるみたいだ。
卒業後の進路のレポートは読んでびっくり。半分くらいは「進路不明」のまま卒業して行くらしい。芸術を志すための最高の環境で修練を重ねてもなお、それで「就職」に繋がるわけではないし、「就職」に意味があるわけでもない。どんなに才能に恵まれていても、どんなにそういう人が自分を磨き上げても、それが「成功」に繋がるとは限らない。自身の芸術の成就と生活の狭間でどういう人生を送っていくのか、考えただけでも気が遠くなりそうだ。でも、そうではあっても藝大はあったほうが良い。そう思ってこの本を読み終えた。