大変面白く読ませていただいた。
バイオリンを始めた経緯、芸大に進みN響に入るまでの経緯、団員との練習風景、あまたの名指揮者との音楽体験、と、読んでいて面白い記事ばかりだった。最後の対談を読むと、団員同士が殴り合いをするほど、互いに音楽を突き詰めあっていたようだが、これには驚きを禁じえなかった。
著者はN響で長らくバイオリン奏者として活躍し、定年退職してから10年になろうとしているそうだ。もう人前での演奏は緊張するのが嫌なので、していないとのこと。気軽にどんどん演奏すれば良いじゃないと勧められても、著者にとって人前で演奏するということは準備も含めて緊張することなのだと言う。これには強く共感する。練習などしなくても人前で素晴らしい演奏が出来るのなら、そういう人はどんどん演奏すれば良いじゃないかと思うけれど、そんな天才は滅多に居ないだろうし、この本を読む限り、著者は身を削るような練習を通してN響人生を乗り切った方なのだから、演奏は自身の練習や近しい人とのアンサンブルで楽しむ程度でいいのでは、と思った。
楽団から勧められて文章を機関紙のコラムに書き始めたとのことだが、簡潔な文章は読み易く、こういう世界を紹介する数少ない書き手として貴重。この本のほかにも著書がたくさんあるようなので読んでみたいと思うし、これからの活躍を期待したいと思った。