
同作品の鑑賞は2013年の劇団四季60周年記念昭和三部作一挙上演の時以来二度目です。
前回は秋劇場でしたが、今回は自由劇場。

前回は南十字星⇒異国の丘⇒李香蘭の順での上演であった為もあってか、他の昭和三部作二作品と比べると、李香蘭はやや異色な作品であるものの、昭和三部作の中で一番好きだ、と前回の鑑賞記に書いてありました。
久し振りに観るに当たり、当時の鑑賞記を読み返してみるも、ストーリーテラーを務める川島芳子を中心に、歴史をダイジェストに描いた芝居が進む構成と言う点や、軍事裁判から始まり軍事裁判に終わる点、主要5人の関係、李香蘭の日劇リサイタルなど、断片的にしか思い出せなかったので、新鮮な気持ちで観てみようと思って観劇に臨みました。
こちらキャストボード

前回の鑑賞(2013/9/17)からの主要キャストの変更は以下の通り。
李香蘭:笠松はるさん⇒野村玲子さん
今回は四季の公演ではないものの、李香蘭役は前期同様にオリジナルキャストの野村玲子さんと前期公演でデビューした笠松はるさんのダブルキャスト。
前回の鑑賞は偶然、笠松はるさんのデビュー公演に当たったのもあり、今回はオリキャスの野村さんでみてみたいなぁと言う気持ちも少しあったので、良かったです。
川島芳子:樋口麻美さん⇒雅原慶さん
今回は李香蘭だけではなく川島芳子も坂本里咲さん/雅原慶さんのダブルキャスト、共に今期デビューで、当日は雅原さんの川島芳子デビュー公演でした。
雅原さんは樋口さんと同じ系統なので想像ついたのですが、里咲さんが川島芳子とは…そっちはそっちで観てみたかったなぁ。
実際、里咲さんの川島芳子を観た人達の評価は上々。これまでの里咲さんからは想像できない格好良さなんだそうな。
杉本:芝清道さん⇒上野聖太さん
レミゼやミス・サイゴン、ラブネバーダイなどに出演した役者さんの様です。
王玉林(ワン・ユーリン):神永東吾さん⇒村田慶介さん
前回は神永さんが玉林を演じる事で主要キャストが日本人、中国人、韓国人と多国籍だったのもあり、日中韓合作の平和の作品、なんて言っていたけど、今回は玉林は日本人。
そして、李愛蓮には前回から継続、久し振りにミュージカルの舞台に立つ秋夢乃(秋夢子)さん。
プログラムも購入、オンディーヌ同様に小さく薄いプログラムながらに俳優のインタビューなどなかなか濃い内容。


座席は2列センター、やや下手寄り。
劇場内に入ると、緞帳いっぱいに描かれた絵が目に飛び込んできます。
朱色を基調に描かれた広大な大地に農夫と思われる男性と、右端に頭を垂れた穂。
劇中歌【中国と日本】の歌詞にある、♪中国の秋は茜色 実った高粱で茜色…と言う部分をそのまま描いた様な美しい絵です。
高粱(コーリャン)はモロコシの事らしいですね。
実はこの茜色の大地が描かれた幕は遮幕になっており、幕が開く事なくその裏で兵の暴挙が始まります。
そして幕が開くのと同時に激しい銃声。
昔ながらの銃身の長い銃で、相当な量の火薬を使っているのか、音もさることながら銃口から噴き出す火がしっかり目に見えます。
穏やかな光景が一転して…そんな様子を表すかの様な幕開け。
そんな衝撃的な幕開けから軍事裁判にかけられ漢奸の罪に問われる李香蘭、しかし愛蓮が香蘭が日本人だと証言し、外国人に漢奸罪は適用出来ないと、裁判長が無罪を言い渡した瞬間の、それまで殺せ漢奸と歌っていた中国人達の、無念と絶望が滲み出た表情が凄く印象的でした。
また、川島芳子が歌う【唯一生き残ったもう一人のヨシコちゃん】と言う歌詞もインパクトが強いよね。
清(中国)に生まれ日本に養女に出されたヨシコは漢奸の罪に処され、日本に本籍を持ち中国に養女に出されたヨシコは漢奸の罪に問われながら後世まで生き残った、と言う複雑なもの。
また、唯一生き残ったと言う歌詞に、川島芳子も杉本も玉林も死に、と言う意味かと思ったけど、愛蓮は死んでないのだから、主要キャスト唯一、と言う意味ではないのかと。
さて、作品云々以外に毎度話題になるのが、夫人が幼子を演じると言う部分でどうかって点。
まず李香蘭の名前を与えられた13歳、出てきた瞬間こそ違和感があるんだけど、割とすぐに見慣れました。
川島芳子が、昭和~○年~と歌う時に出てくるペコちゃんみたいな恰好をした7歳位の夫人、最初はないわー!って思ったけど、こちらもいつの間にか馴染んでました。不思議。
二・二六事件や国際連盟脱退、志那事変や満州事変、五族協和の建前と真実、歴史の授業で必ず耳にするような歴史的事件と香蘭の成長をダイジェストに紡いでいき、戦時中の非常時だと言うのに日本劇場(現・有楽町マリオン)に7周半もの行列を成したと言う李香蘭日劇リサイタル。
リサイタルのシーンで歌われる夜来歌(イェライシャン)、昭和初期の歌謡曲で良く耳にする独特の抑揚(この曲で言うと♪月に切なくも匂う夜来香~の部分とか)、歌うの難しそうだなぁと。
そして警報と爆撃音に気持ちが昂り、出兵する日本兵の親や身内に宛てた別れの手紙(わだつみの声)からの、撃墜されて海に墜落する戦闘機の映像に始まる悲惨な実写映像の上映シーンに思わず涙。
兵士の手紙の中には、『ユタと不思議な仲間たち』で使われてる歌詞が引用されてる部分があります。
香蘭と杉本の別れ、を聴くのもソンダン魂、四季公演の李香蘭に続き三度目。
まだ李香蘭と言う作品未見だった、ソンダン魂で初めて聴いた時の演出(香蘭に別れを告げた杉本が出兵の列に紛れて見えなくなる)に、これが今生の別れなら悲しいな…と感じた物が、後に作品を観たらそのシーンで杉本が本当に『これが今生の別れになるから』と言っているのを見てびっくりしたのを覚えてます。
そんな悲惨で重苦しい舞台なのに唯一、何故かほっとするというか、緊張の糸が途切れるというか、そんな登場人物が満州国のトップに君臨してる(させられてる)愛新覚羅溥儀なんだけど、あれはいったい何なんだろう?(笑)
なんであの人は最初から最後まであんなに情けない顔をしてるのかね?と思って調べてみたら、本当にそんな顔した写真ばかり出てくる(笑)
クライマックス。
四季では一度しか見てないので、ひょっとしたら記憶違いかも知れませんが…。
何ヶ所か四季時代と違うかな?と感じるシーンがありました。
まず一点が、銃殺された川島芳子。
銃殺された時の衣装は軍服ではなくチャイナ服でした。
四季時代は射殺時も軍服だった様な?
もう一点が、愛蓮の婚約者、王玉林の死。
四季時代は日本兵に玉林が殺されるシーンがあったハズ。
婚約者を日本人に殺されたのに、それでも尚、軍事裁判で日本人である香蘭の味方をし中国人の愛蓮、と言う印象が残ってたんですが…。
ところが今回は、玉林が殺されるシーンはありませんでした。
軍事裁判で、香蘭は日本人だと証言した後になって、それに憤慨した周りの中国人の口によって、お前の婚約者も日本人によって殺されたではないか!ここで日本人の味方をすれば日本人に殺された婚約者は泣くぞ、と告げられて、そこで初めて玉林が日本人に殺された事を知って、顔を覆って泣く…と言う流れでした。
あ、夢乃さん本当に涙流してました。
四季版と浅利事務所版の違い、と言ったらこの辺かなー、って感じがしました。
最後に【中国と日本】を日本語と中国語で歌うのは変わらず。
休憩中にはロビーを絶えずウロウロしていた浅利さんの元に、終演後は凄まじい行列が出来てました。
みんな感動を伝えていたんだろうなぁ。
やはり良い作品。
今季は難しいかも知れないけど、また観たい作品です。
異国の丘や南十字星はやらないのかなぁ。
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