
『昭和三部作』は太平洋戦争の渦中の一部に焦点を当てた作品で、第二作に当たる異国の丘は、戦後のシベリア抑留に散った日本兵たち。
第三作の『ミュージカル南十字星』では南方戦線に送られた一介の青年兵士達が極東国際軍事裁判で理不尽な処刑をされる物語、そして今回はソ連軍によって連れ去られ理不尽な労働環境で強制労働され、日中和平工作に奔走しながらも失敗し、引揚げを間近に見ながら散って行った満州国の日本兵たちの物語。
残り一作の『ミュージカル李香蘭』も、漢奸裁判にかけられた日本人(李香蘭=山口淑子)が主役。
いずれも戦争がもたらす悲劇を色濃く描き出す作品で、いずれも今季の公演が初見です。
キャストボード。

これまた豪華な顔触れです。
荒川務さん…キャッツのラム・タム・タガー以来10ヶ月振りの拝見。
シンガー枠の俳優さんでありながら、今回はダンサー枠の俳優さんに混じりダイナミックなダンスを披露すると言う、“元アイドル歌手の片鱗”を見せるシーンも。まぁ、言われてみればタガーでも踊ってるしね。
佐渡寧子さん…アイーダのアムネリス以来6ヶ月半振りの拝見。
相変わらずの見た目の若さ、そして歌声の声量。しかし、その割に喋り方は年齢を感じるなぁ。。。
舞台縁ギリギリに立ってソロで歌うシーンがあるのですが、最前ドセンで観てるうちら…もう近過ぎてある種の感動。
中嶋徹さん…ライオンキングのティモン以来一年振りの拝見。
南十字星では維田じいが務めた語りを、異国の丘では中嶋さんが担当。
特に語りの部分は、ひたすら長い台詞を的確に明晰に伝えようと必死になってるのが見て取れました。
もう、これでもかと言う位、口を激しく動かしていて、見ている方としては不自然さが気になって仕方なかった…語り以外の部分は全然そんな事なかったんだけどね。
深水彰彦さん…サウンド・オブ・ミュージックのトラップ大佐以来3ヶ月半振りの拝見。
硬派なイメージがしっくりくる深水さん。今回も硬派で不器用で愛国心が強い役がピッタリでした。
しかし、それだけにライオンキングWebシアターに出てくるムファサのコミカルさが際立って仕方ない。。。(笑)
深見正博さん…役付きでは、ひばりの主任検事以来一年振りですが、それよりもアンサンブルで出演していたジーザス・クライスト=スーパースターのバックステージツアーでの暴走振りがとても印象深い深見さん。
今回は、多分戦争が始まる前は浪速の商人さんだったんちゃうかな?的な関西弁の人当り良さそうな役でした。
川原洋一郎さん…ハムレットの墓堀人以来4ヶ月振りの拝見。
今回は薩摩弁のほんわかしたイメージのおっちゃんでした。多分、異国の丘が終わったらオカマちゃんになる事でしょう。
てめえの事ばっかし考えやがって!
小野功司さん…役付の中では唯一の初見の役者さん。しかし、存在を認識出来なかったなぁ。。。
維田修二さん…南十字星の岡野教授以来一か月半ぶりの拝見。
実年齢は存じませんが、見た目的にはひょっとしたら戦争経験者かも?と思わせる維田じぃの、遺言を伝えるシーンには胸を打たれました。
光川愛さん…アイーダのアムネリス以来11ヶ月振りの拝見。今回は日本人、中国人、イギリス人と言う多国籍な役柄が登場する作品ですが、韓国人の光川さんが中国人役を演じると言う、今のご時世些か複雑な心境では無かろうかと言う役どころ。
団こと葉さん…ウェストサイド物語のグラジェラ以来8ヶ月振りの拝見。
ダンサーさんなのに結構重要なソロナンバーの歌唱がある。
団さんの歌はキャッツのディミータ位しか記憶になく(コーラスラインのシーラ、ソロあったか記憶が定かでない)、ちょっと新鮮でした。
団さんは異国の丘が終わったらコーラスラインかなぁ。
青山裕次さん…ハムレットのレイアティーズ役以来3ヶ月半振りの拝見。
もうね、中国人の役なんだけど、青山さん本当に中国人にしか観えなかった!(笑)
レイアーティーズの時とは顔からして違って見えました。
中村伝さん…ハムレットのバーナードー役以来3ヶ月半振りの拝見。
イケメンですよねーーーーーーー。アンサンブルに居ても見分けが付く数少ない俳優さんです。
青木朗さん…オペラ座の怪人のムッシュー・フィルマン以来2ヶ月振りの拝見。
もうね、なんか絵に描いた様な顔してました(笑)意味は観ればわかると思う。
星野元信さん…リトルマーメイドのグラムズビー以来3ヶ月振りの拝見。
父親でも息子のことをニックネームで呼ぶのかー、しかも総理大臣が…と小一時間。
八重沢真美さん…サウンド・オブ・ミュージックのエルザ役以来3ヶ月半振りの拝見。
見た目的にエルザの時と大差なかった様に思えます(笑)
鈴木周さん…南十字星の原田大尉以来一か月半振りの拝見。
維田じいと並んで南十字星から引き続き三部作出演中。原田大尉の時とは打って変わり見た目的には優しそうな感じでした。
しかしどことなく影がある役が似合いますな。
高林幸兵さん…ジョン万次郎の夢の伝蔵親方&役人様以来2ヶ月振りの拝見。
今回は歌を歌うシーンがなかった為か、高林さんを見るといつも気になってる点(歌う時に顔がぶるぶる震えてる件)はなかった様に感じました。
西村麗子さん…キャッツのボンバルリーナ役以来11ヶ月振りの拝見。
ナターシャって名前はどう見ても不釣り合いだろ!って思う位に格好いい女性です(何)
あのエレガントofエレガントな麗子ボンと同じ人とは思えません。そして敵国の兵士をまとめ上げる長官的立場なのに、どことなく妖艶さを感じるのは何故だろう。
作品が始まった直後で、登場人物も名前を呼ばれる前で誰が誰かわからない段階でも、俳優さん達の顔で見分けが付く様になってました。
以上、キャストについてでした。
前回はプログラムを購入しましたが、プログラムは三作共通なので今回はキャストブックのみ購入。

座席は最前列ドセン。
んだば雑感。
雪に覆われた木々が描かれた遮幕の向こう側で、写真なんかでも良く使われるシーン(荒川さん演じる九重秀隆を囲う日本兵達が歌うシーン)、そして遮幕のこちら側で語りを務める中嶋さん演じる吉田が事の成り行きを説明するシーンからスタート。
遮幕は暗い方から明るい方は透けて見えるけど、明るい方から暗い方は見えないマジックミラーと同じ仕組みの幕なので、客席側からは俳優さん達の姿は見えるけども、俳優さん達は何もない幕に向かって歌ってるワケだから、どんな気分なんだろうなーと。
幾ら冷房を効かせた劇場内とは言え、日本兵役の俳優さん達はみなコートに帽子と言う見るからに暑そうな防寒着姿…連日35℃越えの中お疲れ様です…特に荒川さんは顔に汗が目立ちます。
雪原の兵士たちはしきりに足をさすり、歩く時も片足を引きずり、殆どの人が手足を凍傷してる様を描いています。
そんな中でも、先述の様に関西弁の人がいたり薩摩弁の人がいたりして、その点にリアリティを感じました。
兵士はみな共通語を強いられていたかも知れないけど、場面は終戦後で役務を解かれた(と言っても元の生活に戻る事が出来ない)状態で、みんながみんな同じ言葉を喋ってるのは、これだけ多くの方言が存在する日本では確かに不自然だもんな。
シーンは、現実の世界である零下40℃の雪原に於ける苦しみと、回想シーンであるニューヨークの華やかなシーンとを交互に見せる為、より一層、雪原での出来事が過酷に思えてしまいます。
九重秀隆と神田の出会いを描く回想のニューヨークのシーンでは、夜の社交場が描かれ、明るいジャズナンバーに乗せてダイナミックなダンスが披露次々に披露され、雪原とのギャップは本当に凄い。
最前から観るダンスはどうしても視界に入り切らずに、少し見え難いなって印象なんだけど、この作品のダンスは迫力ばかりが伝わり、見え難いとは感じなかったです。
華やかなダンスを踊ってるホールからちょっと目を外すと、舞台の下手の端っこに席に着く神田(深水さん)を発見。
結構ノリノリでした(笑)
この先、硬派なキャラに徹しつつ、アメリカの歌を歌ってみたりして結構浮世事が好きなんだろうなって姿が見え隠れしたりしますが、最初の登場シーンから既に音楽好きそうな若者(笑)ではないですか。
そんな中、留学生の若者として登場した九重秀隆の顔がまんま現在の荒川さんだった事に苦笑ですが…(笑)←荒川さんももう50歳を過ぎてるしね。少々若作りすりゃいいのにとも思うけど、現代と過去が頻繁に入れ替わるこの作品ではきっと無理なんだろうな。
その50過ぎのオジサン(失礼)顔な留学生が、若いダンサー達と一緒に踊るシーン、これがもうどうして、実にシャープで格好いい。
菊池正さん(ユタのペドロ)もそうだけど、見た目や年齢からはおよそ想像がつかない様なキレッキレのダンスとか踊られちゃうとちょっとキますよね。
そして、フィーリングパーティー的なノリのダンスになって、そこで九重と愛玲(佐渡さん)は運命的な出会い(実は仕組まれてたっぽいけど)を果たす事になるわけですが…。
しかし、こう言った社交場、少し憧れます。
ディスコやクラブと言った類の場所は得意ではないけど、度々舞台でこう言ったシーンを見掛ける度に、若いころに一度はこういう所に行ってみたかったなーとか思ったりします。
ジャズバンドが好きってのもあるかも知れないけどね。
お互いに敵国の民族同士だと分かった後、表向きは敬遠しながらも、心の中では相手を想う気持ちが捨てられず、許されない愛に身を馳せる九重と愛玲…うーーん、アイーダを観てる様だ(笑)
この作品、背景に凄く凝ってるな、と言う印象を受けました。
背景は恐らくスクリーンに風景を写しているんだろうけど、どの風景もベタではなく、独特のカットを入れた斜めな形状の背景だったりします。
そして、惹かれた相手が敵国だと知り(表向きは)決裂してしまった九重と愛玲の、その背景で待ち合わせシーンを演じるアンサンブル達。
単純に女が待ってる所に男が来て、或いは男が待ってる所に女が来て、お待たせ♪的なジェスチャーの後に仲良くハケていくだけなんだけども、その待ってる立ち姿も、その待ってる方に触れる姿もみんな個性的で、あぁ~そう言う“お待たせ♪”もあるんだ~と楽しめる様になってたり(笑)
一幕ラストの、お互い別々の船の上に佇んでるのに、まるで小説の挿絵にでもなりそうな、並んで海を見詰める姿とか好きです。
現実にこういう演出をする舞台があるんだー!と言う意味で。
そして、今回もソンダン魂で演じられたナンバーはイントロからすぐに反応しました。
『引き裂かれた心』のイントロが好きなんですよね。まぁ、劇中で流れるまで、異国の丘の曲だって忘れてたけど←。
二幕では、日本を恨むあまりに中国人同士で殺し合いをしたり、結果自らの恋人を撃ち殺してしまったりと、バイオレンスなシーンも挟みつつ。
同じ日本人の仲間同士の中でも引き揚げ船に乗れる者、乗れない者の明暗が出、更に乗れないとわかった者の中にも、その理由を敵国兵に問い詰める者、或いは自分はもう帰れないと読んで、引き揚げ船に乗れる事になった者に遺言を託すもの、ともすれば個性は打ち消され統率感ばかりが描かれる兵隊たちの、個性が色濃く描かれているシーンだなと。
そして、紙にすれば没収されるからと、全員で暗記して無事に帰れた者が家族に伝えるとし、全員で復唱した平井(維田じぃ)の遺言のシーンは胸を打たれました。客席はすすり泣く声も聞こえた。
神田はナターシャから奪った拳銃で自らのこめかみを撃ち抜き、九重はソ連軍の投与する薬(とされた毒物?)に力尽き、帰国を目前にした日本兵の悲惨な結末が描かれ、最後にはオープニングと同じシーンに戻り、今度は語りが犠牲者の人数などを述べると言う幕切れ。
南十字星はインドネシア文化をふんだんに取り入れた異国情緒にあふれる作品だったのに対し、異国の丘は映画や舞台などに良くあるアメリカンな雰囲気が強く出ている作品だと感じました。
そして、異国の丘では反戦メッセージを出しながらも、それぞれの国はそれぞれに戦う意味を持ちそれに基いて戦っていると言う逆の見方のメッセージも込められていた様に感じました。
さて、次回の舞台鑑賞はーー?
マスオです(違)
重苦しい戦争物から一気にお子ちゃまにもわかりやすいファミリーミュージカルへ。
劇団四季【人間になりたがった猫】です。
この記事に戦争反対署名。