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三橋TV第169回【必見!誰が日本に水田稲作を伝えたのか?】
 藤井聡先生が編集長を務める「表現者クライテリオン」で、折田唯氏の「【書評】国会審議はなぜ形骸化するのか~大山礼子著『政治を再建する、いくつかの方法 政治制度から考える』~」が配信されました。

 大山礼子氏の「政治を再建する、いくつかの方法」については、わたくしは現在の著作の資料として読み、大変、勉強させて頂きました。日本の政治(政策、ではなく)を知る上で、実に素晴らしい一冊だと思います。

 が、本ブログの読者が手に取ると、冒頭でウンザリすることになります。何しろ、序章から、こうなのです。
 
『(引用)東日本大震災以来、大地震、津波、火山の噴火などの自然災害が連鎖的に起きるのではないかと危惧されている。地球温暖化が原因であるかどうかはともかく、気候変動によって豪雨災害が頻発するようになり、これまで台風の被害にあったことのない地域にも甚大な被害が生じている。しかし、災害対策として実施されるのは、 国土強靭化」と称する旧来型の公共事業ばかりである。
 社会資本の老朽化も深刻だ。高度成長期に建設した社会資本の多くが、まもなく更新時期を迎える。国土交通省の調べによると、2032年までに建設後50年を超える設備は道路橋の65%、トンネルの47%、港湾岸壁の56%にも達するという(内閣官房「インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議」 第1回〉〈2017年10月16日〉」参考資料)。人口減少時代に突入した現在、今後も維持・整備すべきインフラを取捨選択することが必要になるが、これまでのような政治ではすべてをリプレイスしてツケを将来世代に回すことになりかねない。』
 
 要するに、財政破綻論に染まり、「旧来型の公共事業」「「将来世代へのツケ」など、日本の「政策」(政治ではなく)問題の本質を理解していないのです。

 というか、旧来型でも何でもいいですが、公共事業以外に「災害対策」があるのか? インフラ全てをリプレイスすることが、なんで「将来世代へのツケ」になるのか? 意味不明ですが、この手の論調は過去の日本人のデファクトなので、まあ、いいでしょう。

 大山氏が、
「旧来型の公共事業を減らしたせいで、次の災害で国民が死んでも自己責任」
 という価値観を持っていたとしても、それはご本人の勝手です。より問題は、次の箇所。
 
『(引用)首相個人に対する支持が必ずしも高いとはいえなくても政権が長期間安定しているのは、派閥が力を失い、自民党内に首相に対抗する勢力が存在しなくなったことによるものだろう。安倍内閣は小泉内閣と比較すると、公共事業費を大幅に復活させるなど、従来型の自民党政治に回帰する面があり、閣僚人事でも派閥にある程度配慮している。』
 
 え? え? え?

 小泉政権期と比較し、公共事業を大幅に復活させた安倍政権って、どこの異世界ジャパンの総理大臣?
 
【日本の公共事業関係費の推移】
http://mtdata.jp/data_59.html#koukyoujigyou
※2014年度以降は特別会計からの移行分(約0.6兆円)を「社会資本整備事業特別会計廃止分」として分けて計上。
 
 何だろう? 「政治」についてここまで素晴らしい著作を書く大山氏が、「政策」について緊縮志向、反公共事業に染まっているのはともかく、「嘘」を堂々と書けるというのは、一体、どういう現象なのでしょうか。インターネットで検索すれば、安倍政権が公共事業を増やしていないことは、すぐに分かるのに・・・。
 
 むしろ、安倍政権が小泉内閣と比較して「公共事業費を大幅に復活させる」内閣であったら・・・。

 要するに、日本人の多くは「数字」「データ」で観るという習慣を持たず、フレーズ(バラマキ、旧態依然、族議員、旧来型、将来世代へのツケ、既得権益などなど)で現象を理解してしまうという話なのでしょうか。そういえば、大山氏も著作の中で「既得権益」「族議員」という用語を多用していました。

 もっとも、上記の点を割り引いても、大山氏の「政治を再建する、いくつかの方法」は読む価値がある良書だとは思いますが。
 
【歴史音声コンテンツ 経世史論】
http://keiseiron-kenkyujo.jp/apply/
※11月5日から上島嘉郎先生と三橋貴明の対談「自虐史観はなぜ始まり、深刻化したのか」がご視聴頂けます。
 
 さて、安倍政権が「事業規模26兆円」の経済対策を閣議決定しました。
 
『事業規模26兆円の経済対策を決定、アベノミクス加速と安倍首相
 政府は5日の臨時閣議で、台風19号など相次ぐ自然災害を受けた復旧・復興や景気下振れリスクに対応するための新たな経済対策を決定した。民間支出を含む事業規模は26.0兆円程度、財政支出は13.2兆円。今年度補正予算と来年度当初予算に関連経費を計上する。
 財政支出のうち、国・地方の歳出は9.4兆円程度、財政投融資3.8兆円程度。今年度補正予算で4.3兆円、予備費で0.1兆円を確保するとともに、来年度当初予算の臨時・特別の措置で1.8兆円を計上する。経済対策による実質国内総生産(GDP)押し上げ効果はおおむね1.4%程度と見込んでいる。内閣府は2021年度までのトータルでの経済効果と説明している。(後略)』
 
 事業規模「26兆円」というのは、「民間支出」が入っているため、数字として確定しているわけではありません。
 財政支出は13.2兆円ですが、内訳は以下。
 
◆災害からの復旧・復興と安全・安心の確保 5.8兆円(程度)
◆経済の下振れリスクを乗り越えようとする 者への重点支援  3.1兆円(程度)
◆未来への投資と東京オリンピック・パラリ ンピック後も見据えた経済活力の維持・向上 4.3兆円(程度)
 
 「災害からの復旧・復興と安全・安心の確保」では、中央政府・地方の歳出が5.4兆円(程度)で、財政投融資が0.3兆円(程度)。

 何で、いちいち(程度)と書いているかといえば、閣議決定された資料「安心と成長の未来を拓く総合経済対策」 に、そう書いてあるためですが、もちろん「やらないよりはマシ」なのは確かです。

 とはいえ、今回の経済対策には懸念点が複数あり、
 
1.二度の消費増税で、「毎年」約15兆円の所得を国民から奪い取る苛政の対策が「一度」の13.2兆円で足りるはずがない(デフレ脱却は不可能)。
2.一度きりの公共投資拡大では、土木・建設業が安心して供給能力拡大のための投資をする環境は訪れない
3.土木・建設業が供給能力を増やさないため、消化しきれない恐れがある(入札不調が相次ぐ

 となると、
「ほら見ろ! 13.2兆円「も」財政を拡大したにも関わらず、デフレ脱却できなかったどころか、人手不足で消化すらできなかったじゃないか。財政拡大はムダ!」
 といった論調で、財務省や飼い犬たちが「財政拡大無効論」を叫び始めるのが目に見えているのです。
 
 となると、大山氏ではないですが、
「ああ、やっぱり『旧来型』の公共事業はムダなんだ。将来世代にツケを残すな~」
 との声が高まり、本格的な「長期の、計画的な財政拡大」はできず、このままデフレが続き、国民が貧困化し、将来世代に「崩壊したインフラを残す」形でツケを押し付けることになるわけです。

 情報を正しく読む。日本の一般国民が、これほどまでに情報リテラシー(読み取り能力)を求められるのは、大東亜戦争末期以来のことではないでしょうか。

 再度の亡国(※国民が主権を失うこと)を食い止めるためにも、問題の本質を見抜き、情報を、データを正しく理解し、「正しい政策」のために政治を動かす必要があるのです。
 
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