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『日本の少子化をくい止めるにはーその2ー(前半)』三橋貴明 AJER2019.10.22

 

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三橋TV第162回【PBある限り日本の亡国は止まらない、弱者救済も不可能という現実】

https://youtu.be/5IOeVceC01M

 

 本日は リーズを発ち、マンチェスター、リバプールと移動します。いよいよ、産業革命発祥の地へと入っていくわけです。

 ご存知の通り、産業革命は、イギリス東インド会社がインド産キャラコの輸入ビジネスを拡大し、危機に陥った毛織物業者を中心に、
1.生産性向上のための投資(技術投資、設備投資、人材投資)が進んだ
2.設備投資などの資金について、銀行が万年筆マネーで貸し出すことが可能だった
 と、二つの条件が満たされた結果、連合王国(イギリス)で始まりました。

 産業革命は、連合王国に驚異的な生産性向上をもたらし、世界の覇権国へと導きます。
 
【世界の工業生産に占める各国の相対的なシェア(%)】
『1860年。世界の人口の2%、ヨーロッパの人口の10%を占めるに過ぎないイギリスが、近代産業において世界の生産能力の40-45%、ヨーロッパのそれの55-60%を所有していたとみられている。(Crouzet, Victorian Economy)』
 
 ちなみに、1860年頃の連合王国の世界に占めるシェアは、鉄生産が53%、石炭生産50%、原綿消費50%、工業製品貿易シェア40%に達していました。

 東インド会社がキャラコを連合王国に持ち込まず、市場開拓をしなければ・・・。
 イギリス毛織物業者らが、技術開発や設備投資で「インド人労働者よりも安く作る」を目指さなければ・・・。
 イギリスで「金融」が発展しておらず、金貨銀貨の商品貨幣の社会で、業者らが設備投資の資金調達が困難だったら・・・。

 いずれのケースでも、産業革命は時期が遅れたか、あるいは他国で始まったのではないでしょうか。
 
『(キャラコについて)もっとも安いものがインドで買える。イングランドでだったら、1シリング(=12ペンス)ほどの労働や作業が、そこでは2ペンスでなされる。イングランドの労働の価格はインドの労働の価格よりずっと高いから、英国で完成織物を製造することは経済的ではない(1700年頃の史料)』
 
 当時の英印の人件費の差は、6倍。現在とは異なり、連合王国の産業主が簡単に資本(工場)をインドに移すことは困難でした。

 というわけで、連合王国の発明家、企業家たちが、インドの低人件費に勝つために「投資」を行ったのです。結果、イングランドで「インドよりも安く」綿製品を生産することが可能になります。
 
 もちろん、話はビジネスサイドにはとどまりません。
 
 まずは、国家としてインド産キャラコの輸入禁止という保護貿易を推進(キャラコ禁止法)。
 
 産業革命で十分に生産性が上がったならば、インドに押しかけ、
「自由貿易やろうぜ」
 と、自国の綿製品をインド市場に雪崩れ込ませました。結果、それまで綿布産業で繁栄を極めていたインドのダッカ、スラート、ムルシダバードなどの街は貧困化の一途をたどり、当時のイギリスのインド総督が、
「この窮乏たるや商業史上にほとんど類例を見ない。木綿布工たちの骨はインドの平原を白くしている」
 と嘆くに至ります。

 1882年、インドは綿布の関税を「撤廃」させられ、完全な自由貿易の国になります。というか、させられます。

 12年後、インド財政が危機に陥り、英国製品に対し3.5%の関税がかけられます。それに対し、連合王国は関税の保護効果を無くすために、同率の国内消費税をインド製品に課したのです(相殺消費税)。インドの綿布業者は、
「いかなる国の経済史においても類をみない利己的な政策」
 と、批判しました。
 
【歴史音声コンテンツ 経世史論】
※11月5日から上島嘉郎先生と三橋貴明の対談「自虐史観はなぜ始まり、深刻化したのか」がご視聴頂けます。
 
 前置きが長くなりましたが、事実上の産業革命発祥地、マンチェスターとリバプール(マンチェスターで生産された綿製品が、リバプールに運ばれ、輸出されたのです)に行ってきます!

 連合王国が産業革命で発展したのは、ある意味で「資本主義」に忠実だったためです。もちろん、エゴイスティックな政策(キャラコ禁止法、インド支配と自由貿易の強制など)もありますが、
「需要が拡大している状況で、生産性向上の投資を行った」
 が故に、連合王国は物凄い勢いで「覇権国」になったのです。これは、資本主義の基本です。

 経済の五原則、その1.
「国民経済において、最も重要なのは「需要を満たす供給能力」である。」
 でございますよ。
 
『MMTをめぐる議論で欠けている「供給力」の視点 完全雇用をめざす「就業保証プログラム」問題
 内外で議論の最先端となっている文献を基点として、これから世界で起きること、すでに起こっているにもかかわらず日本ではまだ認識が薄いテーマを、気鋭の論客が読み解き、議論する「令和の新教養」シリーズ。
 前回、経済評論家で株式会社クレディセゾン主任研究員の島倉原氏が監訳をつとめた『MMT現代貨幣理論入門』を基に、MMTの概要を解説した。
 今回は、同氏と中野剛志(評論家)、佐藤健志(評論家・作家)、施光恒(九州大学大学院教授)、柴山桂太(京都大学大学院准教授)の気鋭の論客4人が、同書をめぐって徹底討議する。(中略)
◆「投資は供給力を増やす」
中野:40%はともかく、たとえ財政支出過多が理由でインフレが起きたとしても、そう長くは続きません。理由の1つは財政民主主義です。よく「増税や歳出削減をするのは国民が嫌がるから」と言うけれども、国民はハイパーインフレも嫌がりますので、高インフレを放置する政権は見切りをつけられてしまう。
 財政支出過多によるインフレが続かないもう1つの理由は、「投資は供給力を増やす」という事実です。
 供給に対して需要が増えて需給ギャップが広がるとインフレになるのだけれども、民間の設備投資でも公共投資でも、投資は供給力を増やすために行われます。
 だから投資した瞬間には需要が増えても、それからしばらくすると設備が稼働して供給が増えるので、時間差で需要を追い上げることになる。供給が需要を追い続けているかぎり、一定以上のインフレにはならず、一方で経済の規模は拡大してゆく。これを「経済成長」と称するわけです。
 ただしMMTはその名のとおり「貨幣理論」であるせいか、投資による供給の拡大についてはちゃんと議論されていないように思う。
柴山:MMTでは、完全雇用を実現する政策として「就業保証プログラム」を推奨していますね。それによって失業は減りますが、供給力が増えるかどうかはわからない。
中野:供給の分析が不十分というのはケインズの理論の欠陥でもあったんです。僕はMMTをめぐる議論に欠けているのはこの視点だと思っています。MMTを批判する人たちは供給力の議論を欠いたまま、目先の需要の増減だけ考えて、「財政支出増でインフレが起きる」という議論をしている。(後略)』
 
 日本の場合、防災投資の拡大は必須ですが(これに反対する人、います?)、財務省の飼い犬たちは、
「政府が公共投資や防災投資を増やしても、人手不足でキョウキュウセイヤクガー」
 と、人手不足を理由に持ち出し、財政拡大を否定しようとします。

 いや、日本の土木・建設の供給能力が、長年の公共投資削減、一般競争入札化などの構造改革で毀損したのは確かですが、それを「そのまま」にしておいていいんかい! 世界屈指の自然災害大国で。現在、そして将来の国民が死ぬんですよ。

 現在の日本が採るべき道は明らかです。

 まずは、MMTでも何でも構わないので、日本に財政的な予算制約がないことを理解する。安藤先生ではないですが、
「ボクは財政健全化を重視する派だけど、『今』は財政拡大が必要だよな~」 
 と、緊縮派の国会議員が逃げを打つのでもいいです。別に、謝罪も賠償も要求しません。

 その上で、日本の毀損した土木・建設の供給能力を引き上げる、具体的には民間企業の投資を引き出すために、長期の防災インフラ整備、交通インフラ整備の計画を打ち出すのです。

 今後十年、毎年、インフラ整備の予算積み増しが予算として確定しているならば、土木・建設企業が本気で投資拡大に乗り出し、将来の日本国民が救われます。

 無論、現在の日本国民も防災インフラに守られ、交通インフラの上で生産を拡大し、豊かになることができる。

 つまりは、日本は複数年度予算をコミットした「国土計画」を復活させなければならないのですが、この種の「各国の事情」に応じた供給能力拡大については、確かにMMTでは語られないというか、無理でしょう。MMTにより予算制約から解放された上で、あくまで各国の「政治」が自国のための投資、供給能力拡大政策を決定しなければならないのです。

 日本に必要なのは、長期の予算をコミットする「国土計画」です。国土計画を復活させよう!
 
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