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『政府が国債を発行すると家計の預金が増える①』三橋貴明 AJER2019.2.26

https://youtu.be/mBjN9lCa2h8

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三橋TV第68回【プラットフォームビジネスと竹中平蔵】
 さて、いわゆるリフレ派政策がなぜ失敗に終わったのかといえば、フィッシャー方程式の通りです。
 
実質金利=名目金利-期待インフレ率
 
 の、期待インフレ率が上がらなかったため、失敗したのです。(岩田規久男教授によると、期待インフレ率は2014年4月以降に明確に下がり始めたとのことです)
 
 なぜ、期待インフレ率(あるいは予想インフレ率)は下がったのか。日銀自身が分析しておりまして、期待インフレ率は、
1.適応型予想:過去の実際のインフレ率に依存して、将来のインフレ率を予想する
2.フォワード・ルッキングな予想:実際のインフレ率に左右されず、中央銀行の目標とするインフレ率に依存して、将来のインフレ率を予想する
 と、二つのパターンがあり、「いわゆるリフレ派」は2に賭けたわけですが、実際には日本人は1が多数派だったわけです

 この時点で、政策の不整合が一つありまして、期待インフレ率を高めることでデフレ脱却を狙っているならば、中央政府は国民のインフレ予想を引き下げるような政策をしてはならない、という話です。

 というよりも、中央銀行がフィッシャーの方程式を利用して実質金利を引き下げようとしているならば、中央政府も同じ方向に動かなければならないのです。何しろ、第二次安倍政権は自民党が「デフレ脱却」を標榜した結果、誕生した政権なのです。

 ところが、現実には「いわゆるリフレ派理論」は、
「中央銀行がインフレ目標をたてれば、デフレ脱却できるのですよ。というわけで、緊縮財政を推進しても大丈夫です
 といったレトリックで、財務省に利用される結果になりました。

 さて、改めて日本の「右肩上がりのフィリップス曲線」。
 
【日本のフィリップス曲線(コアコアCPI版)】

 

 

 スタグフレーション期(80年頃)のアメリカなどは、「インフレ率と失業率が共に上がる」形で、フィリップス曲線が滅茶苦茶になったことがありました。とはいえ、現在の日本のように「インフレ率と失業率が共に下がる」形でフィリップス曲線が壊れた国など、過去に例がないのではないでしょうか(知っていたら、教えて下さい)。

 図を読み解く際に、失業率低下とインフレ率低迷を関連付けると、分けが分からなくなります。強引に関連付けてしまうと、現在の日本は、
「物価を引き上げられない不景気が続いているから、雇用を増やしている」
 という、どう考えても非合理的な行動を企業が採っていることになってしまいます。そこまで、日本企業が非合理的だとは思いません。
 というわけで、両者を切り離し、まずは「物価の低迷」から考えてみると、日銀のレポート(16年9月)から、日本人の多くが1の「適応型予想」で将来の物価上昇を予想することが判明しています。

 つまりは、日本の経営者は「過去(もしくは現在)デフレだったから、販売価格は上がらない(上げられない)」と考えていることになります。それでは、なぜ経営者は販売価格を上げられないのか。

 逆に、販売価格を上げられる状況を考えれば分かるはずです。もちろん、「目の前で販売「個数」が増えているとき」です。つまりは、実質の消費の量が「目の前」で増えており、かつ将来的にも減らないと予想して初めて、企業は販売価格を引き上げるのです。
 
【97年増税期と14年増税期の実質消費の推移を比較(96年Q4、13年Q4を1)】
http://mtdata.jp/data_63.html#9714
 
 14年4月の消費税増税は、97年期以上に実質の消費を減らしました。目の前で「販売個数が減る」状況で、企業経営者は販売価格の引き上げには踏み込めません。

 とはいえ、反対側で人口構造の変化(少子高齢化に端を発する生産年齢人口比率の低下)により、人手不足は進んでいきます。消費税増税後、企業は、
「消費税増税で販売個数(=需要)が減っているにも関わらず、人手不足(=供給能力不足)が容赦なく進む」
 という、異様な状況に放り込まれたのです。要するに、デフレギャップを抱えたまま、総需要と供給能力が共に落ち込んでいったのです。

 単に、人手不足が進むだけならば、生産性向上の投資を決断し、人件費を実質で引き上げ、それを販売単価に上乗せすれば済む話です。ところが、消費税増税で「販売個数の減少」」が同時発生してしまったのです(今もですが)。

 結果、企業は販売価格の引き上げに踏み込めず、人手不足を生産性向上ではなく、「安い短時間労働者を増やす」ことでしのがざるを得なかったのです。(岩田教授の言う「労使協調」も影響していると思います)

 これが、フィリップス曲線の崩壊の理由であり、あるいは「就業者増加」「実質賃金低下」「失業率改善」「有効求人倍率上昇」「実質消費減少」「物価下落」といった、各種の安倍政権下の矛盾した(している風に見える)経済指標の組み合わせの真相なのです。

 現在の日本の「インフレ率と失業率が共に下がる」という、人類が(恐らく)経験したことがないフィリップス曲線崩壊の理由は、
「少子高齢化により生産年齢人口比率が下がっているデフレ国の政府が、消費税を増税し、強制的に需要を減らした」
 という、極めて稀な(というか、これは絶対に人類初だわ)環境により引き起こされた珍事なのでございます。色々な意味で、特殊な国です、我が国は。

 この状況で、もう一度、消費税を増税したら、どうなるか。

 無論、販売個数減少により、さらなるデフレ予想となり、インフレ率は低迷します。とはいえ、人手不足は終わらないため、企業はさらに「安い労働者」を追い求め、生産性向上のための投資はしない。まさに、日本は労働集約型の発展途上国への道を全速力で走り始める(もう走っているけど)ことになります。

 上記の「現実」がありながら、10月に消費税を再増税しようとしている安倍政権や財務省は、控えめに表現しても「狂っている」としか言いようがないのです。
 
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