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『投資のマトリクス①』三橋貴明 AJER2015.8.18(7)
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【近況】
オルドスに来ました。な、何だ・・・この街は・・・・。
ハードウェア(インフラや建物や設備)は東京クラスであるにも関わらず、ソフトウェアというか「人」や「サービス」は中国レベル以下です。
ものすごくインフラが整っているにも関わらず、車が少なすぎます。人も少なすぎます(それでも、公称100万人都市なのですが)。
何というか、日本では決してお目にかかれない「ハードとソフトのミスマッチ」を目撃しています。大連のほうが、まだしも「人間的」だったと感想を持ちました。
中国からはツイッターにアクセスできず、告知ができません。ツイッターのアカウントをお持ちの皆様、三橋がきちんとブログを更新していることを拡散して頂ければ幸いでございます。
【本文】
「亡国の農協改革 ――日本の食料安保の解体を許すな
」の正式の発売日は9月8日ですが、国会議員には今週、送付されます。
わたくしは全農(全国農業協同組合連合会)の問題ばかりを取り上げているように思われるかもしれませんが、それは「他の人が全く書かない」ためです。もちろん、農協改革の問題は、全農に限った話ではありません。
意外に広まっているのは、
「アメリカの金融産業(特に保険)が、日本の共済(特にJA共済)に新規参入したがっていることも、農協改革の理由の一つです」
というものです。まあ、在日アメリカ商工会議所が露骨に「提言」してきているわけで、当たり前なのですが。
『政府の農協改革、裏に米国の強力な圧力が発覚 狙いは農協市場の開放
http://biz-journal.jp/2015/09/post_11338.html
安倍内閣が岩盤規制に穴を開けるとしてその象徴に挙げられていた農協改革をめぐり、農協法等の一部改正案が28日国会で可決された。本改正案で特徴的な点は、世界的にも協同組合として規模的・経営的に模範とされている日本の農協を株式会社化できる規定を盛り込むとともに、全国農業協同組合連合会(JA全農)と経済農業協同組合連合会(経済連)についても同様の規定を盛り込んだことである。
協同組合は相互扶助を基本原則としており、利益追求が第一である株式会社とはまったくその組織原理を異にしている。にもかかわらず、農協や全農、経済連が株式会社になることができる規定を農協法に入れる狙いはなんなのか――。
◆在日米国商工会議所の意見書
実は農林水産省は、今回の改正案でJAバンク、JA共済も株式会社化できる規定を導入しようとしていた。しかし、間に合わず今回は見送りとなり、5年後の改正に持ち越しとなった。このJAバンクとJA共済の株式会社化こそが、政府にとって農協の株式会社化の最終目標なのである。
JAバンクは、農協と信用農協、農林中央金庫で構成され、預金残高は90兆円を超え、みずほ銀行を超え国内2位である。また、農協共済は資産52兆円、保有契約高289兆円で国内3位となっている。これだけの規模でありながら組織形態は協同組合で、法人税も軽減税率が適用される。
また、株式会社でないため、株式保有による経営介入もできないし、買収もできない。これに対して、民間企業との競争条件の同一性を要求しているのが、米国政府と米国金融、保険の多国籍企業である。
在日米国商工会議所は、米国政府の通商代表部(USTR)や米国商工会議所とも連携している、著名な米国多国籍企業で構成員される商工団体である。意見書をまとめ、日本政府に対して絶えず圧力をかけている。今回の農協改革にも、意見書で次のような見解を明らかにしている。
「J Aグループは、日本の農業を強化し、かつ日本の経済成長に資するかたちで組織改革を行うべき」
「JAグループの金融事業は、金融庁の規制を受けないことによって利益を得ている」
「JAグループの金融事業と、日本において事業を行っているほかの金融機関との間に規制面での平等な競争環境を確立し、JAグループの顧客が金融庁規制下にある会社の顧客と同じ水準の保護を受けるために、JAグループの金融事業を金融庁規制下にある金融機関と同等の規制下に置くよう要請する」
さらに、JA共済についても「日本政府は国際通商上の日本の責務に従い、共済を外資系保険会社と同等の規制下に置くべきである」との意見書を発表している。(後略)』
ほとんどの日本国民は理解していませんが、「相互補助」の精神に基づき、日本の食糧安全保障の一角を担う各地の農協(単位農協)は、二つの柱で支えられています。すなわち、「准組合員」と「金融事業(農林中金、JA共済)」です。
実は、農協は農産物や肥料・農薬といった生産資材の販売だけでは、普通に赤字になってしまうのです。しかも、農協は組合員(正組合員)の農家に対し、営農事業等を提供しています。農業のノウハウ、技術等の提供のことですが、基本的には無料です。
さらに、農協は人口や正組合員の数が少ない地域に対しても、小売り(Aコープ)やガソリンスタンド、時には医療サービスも提供せざるを得ません。人口の少ない地域で各種のサービスを提供すると、基本的には赤字です。とはいえ、農協は協同組合であるため、株式会社のように「赤字? はい、撤退」といった経営手法はとれません。
特に、日本は世界屈指の自然災害大国であるため、可能な限り「各地に国民が分散して住む」ことが安全保障上、必要なのです。農協は今や、地域コミュニティを支える柱となってしまっています。農協がなければ、地域は存続できず、人口は都会に集まり、安全保障上のリスクが高まっていくことになります。
というわけで、農協は各種サービスの赤字を、「准組合員」「金融事業」という二つの柱から得られる黒字でカバーし、何とか全体的に収支を均衡に持ち込んでいるのです。
単位農協が経済事業(農産物や肥料・農薬の販売)のみならず、信用事業(農林中金)や共済事業(JA共済)も提供するスタイルを「総合農協」と呼びます。日本の農協は、総合農協だからこそ、各地で何とか存続し、サービスを提供し、地域社会を支えることができているわけです。
今回の農協改革は、この「総合農協」を解体することが最終的なゴールになっています。そのための布石の一つが、信用と共済という金融事業の株式会社化です。
農林中金やJA共済を他の金融機関と「イコールフッティング」にすると、規制改革会議の飼い主であると仲が良いアメリカ商工会議所も、大いに褒めて評価してくれるでしょう。
ちなみに、勘違いしている人が多いのですが、各地の単位農協は農林中金やJA共済の金融サービスの「代理店」ではありません。むしろ、話は逆で、単位農協が総合農協として信用事業、共済事業を展開しており、農林中金やJA共済は各地の単位農協から「運用」を受注している形になっています。
今回の農協改革では、「単位農協が、農林中金やJA共済の金融事業の代理店となる」ことが認められました。農協と、農林中金・JA共済の関係を逆転させることで、少しずつ、少しずつ総合農協を解体していくわけでございます。(他にも、総合農協解体のために、様々な手が打たれています。詳しくは「亡国の農協改革 ――日本の食料安保の解体を許すな
」を)
最終回となる明日は、准組合員制度。
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