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『ドイツ第四帝国①』三橋貴明 AJER2015.7.21
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西尾 幹二先生と川口 マーン 惠美先生の対談本「膨張するドイツの衝撃―日本は「ドイツ帝国」と中国で対決する 」で、現在のドイツの「帝国」は、ビスマルクの「ドイツ帝国」やナチスの「第三帝国」ではなく、第一の帝国、すなわち神聖ローマ帝国に似ていると書かれており、膝を打ちました。
神聖ローマ帝国がドイツ帝国や第三帝国と何が違ったかといえば、ズバリ「ナショナリズムの濃さ」になります。神聖ローマ帝国は、「帝国臣民」といったナショナリズムが希薄というか、ありませんでした。
一応、1512年以降の神聖ローマ帝国は「ドイツ国民の神聖ローマ帝国」が正式名称でしたが、諸侯の領邦支配が強く、複数の「国家」の連合体だったわけです。おお! まさに、現在のユーロ圏のようです。
ビスマルクのドイツ帝国は、領邦国家の集合体だった「ドイツ民族」の神聖ローマ帝国が広がっていた地域を、プロイセン主導で統合するというものでした(神聖ローマ帝国自体は、ナポレオンに滅ぼされていましたが)。ナチスの第三帝国が、極端な選民主義を国家の基本に置いていたのは、ご存知の通り。
「ドイツ人の国」の色が濃かったドイツ帝国、第三帝国に比べ、現在のドイツ主導「ユーロ」は、「国民色」がありません。と言いますか、国民の違いを無視して「制度」「協定」「ルール」「条約」に基づき「ドイツ帝国」化しているのが、現在のヨーロッパなのです。
先日、テレビ愛知の「激論コロシアム」で、細川さんが物凄く鋭いことを仰っていました。
「現在の欧州は、巨大な日本のようなものです」
まさに、制度的にはその通りです。何しろ、国境を越えたモノ、ヒト、カネ、サービスの移動が自由化されており、通貨も統一で、中央銀行が(事実上)一つしかありません。
日本も県境を越えたモノ、ヒト、カネ、サービスの移動は自由で(当たり前ですが)、通貨も統一で、中央銀行は日本銀行のみになります。
日本「国内」のように、県境を越えた経済要素の移動を自由化し、「フェア」にビジネスを展開することが可能な場合、何が起きるか。「インフラの充実度」「投資の集中度」「企業の集中度」などが理由で生産性に違いが生じ、各地域の発展に「格差」が出てしまいます。
というわけで、日本国内では東京などのインフラ、投資、企業が集中した地域で徴収した税金を、地方に移転する「地方交付税」という制度があるわけです。そして、日本国民はナショナリズム(国民意識)を共有しているため、地方交付税に文句をつける人はあまりいません(あまり、いませんでした)。
ユーロ圏が真の意味で「帝国」と化すためには、生産性の違いから生じる格差を緩和する「ユーロ交付税」が必要なのです。ところが、何しろユーロ加盟国は「違う国」であるため、高生産性国(ドイツなど)から低生産性国(ギリシャなど)への所得移転は、政治的に通りません。
というわけで、結局はユーロ圏内で生産性の違いを吸収する仕組みが無かったことが、現在の経済問題を引き起こしているわけです。
ところが、意外や意外。
ユーロ圏民(変な言い方ですが)の「懸念」は、相対的には移民問題が経済問題を上回っています。
『EU最大の懸念は「移民」=経済・失業上回る-世論調査
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201508/2015080200017
欧州連合(EU)欧州委員会が7月31日に発表した世論調査結果によると、38%が最大の懸念事項に「移民問題」を挙げ、経済状況(27%)や失業(24%)を抑えて最も多かった。調査は5月、計3万人以上の欧州市民を対象に面接方式で行われた。
昨年11月の調査では、経済状況、雇用、公的債務が懸念事項の上位を占めていた。中東やアフリカから地中海を越えて大量の移民が欧州に押し寄せる中、移民問題への懸念が急速に高まっていることを示した。
最大の懸念事項が移民問題とした回答は、調査対象28カ国のうち20カ国で最も多く、国別に見るとマルタで65%、ドイツで55%に達した。また、テロを挙げた人も昨年調査から6ポイント増加し、17%となった。
一方、EUに対するイメージは「プラス」が昨年11月の39%から41%に増加し、「マイナス」は19%にとどまった。欧州委は「経済の見通しは改善し、統一通貨ユーロへの支持は安定している」と分析した。』
特に、失業率が完全雇用に近づいているドイツでは、回答者の過半数が「移民問題」を最大の懸念事項として選択したわけです。もちろん、「国」によって「経済」を問題視するのか、「移民」を問題視するのかは違うのでしょうけれども。
いずれにせよ、これだけ「勝ち組」化しているドイツで、移民問題を「最大の懸念」として挙げる人が多数派であることは、注目すべき事実です。
結局のところ、モノ、ヒト、カネの国境を越えた移動を自由化するという「グローバリズム」に基づき、ナショナリズムを抑制する形で「建国」されたドイツ第四帝国は、まさにナショナリズムを抑制したことによって、崩壊に向かうのではないかと考えています。
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