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『実質賃金を引き上げる方法①』三橋貴明 AJER2015.3.17
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5月15日(金) 19時30分より『Voice』特別シンポジウム『日本の資本主義は大丈夫か――グローバリズムと格差社会化に抗して』
パネリスト:小浜逸郎、三橋貴明、中野剛志
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月刊リベラルタイム 2015年 05 月号 [雑誌] 」に、「「老朽化インフラ」への投資で本格的な「デフレ脱却」へ」を寄稿しました。


 昨日のエントリー「おカネの話(前編) 」の続きです。昨日、本日のエントリーは、かなり「頭の体操」です。頭を柔らかくしてから、読んで下さい


 昨日、おカネとは「債務と債権の記録」であり、他人に対す債権に譲渡性があり、他人への債務の弁済に使える。これがおカネの正体であると、説明しました。


 ギリシャで面白いというか、興味深い動きが起きています。


焦点:ユーロとドラクマ併用論浮上、資金難のギリシャで苦肉の策
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0MQ0JM20150330?sp=true
 ギリシャ政府は支援の見返りに実施する改革案を債権団に提出したが、合意までにはまだ時間がかかりそうだ。
こうしたなか、資金枯渇の可能性に直面するギリシャでは、IOU(借用証書)を発行して国内の支払いに充て、その分節約したユーロで対外債務を返済するという、実質的に「ユーロとドラクマを併用」する苦肉の策が現実味を帯びてきた。
ギリシャは現在、債券市場での資金調達ができず、国際支援機関は改革案の実施開始を見届けるまでは、追加支援には及び腰だ。関係筋が今週、ロイターに明かしたところでは、新たな融資が受けられなければ、ギリシャは4月20日までに資金が枯渇する可能性が高い。
ユーロ圏当局のある関係者は、ロイターに対して「公務員の給与など国内向けの支払いに充てるユーロが
なくなった場合には、IOUの発行を開始するという手がある。つまり、将来のある時点に、いくらいくらのユーロをIOUの保有者に支払う、と約束した証書だ」と述べた。
 関係者は「そのようにして発行されたIOUは、本物のユーロに対して大幅にディスカウントされた水準で流通、実質的には『通貨』と同じような位置付けになり、ユーロと共存する」と述べた。(後略)』


 ギリシャは現在、年金・公務員給与という国内の支払いと、IMFへの返済という二つの支払いが迫っています。ギリシャ政府には、少なくとも「両方」の支払いを首尾よく実施するだけのユーロがありません。


 というわけで、手元のユーロでIMFの支払いを終え、国内向けには「IOU(借用証書)」をもって支払うわけでです


 現在、ギリシャ政府には、
国内の公務員や年金受給者に対する債務(給料や年金の支払い)」
 があるわけですが、これの「弁済」が不可能なので、困っているわけです。IOUはギリシャ政府の「ギリシャ国民への債務」になります。つまりは、
ギリシャ国民への債務IOUで、国内の公務員や年金受給者に対する債務を弁済する」
 という経済活動を実施するわけでございます。


 IOUに新ドラクマとでも名付け、国内で流通していけば、あら不思議。ギリシャ政府は「おカネ」を発行することができてしまうのです。


 もっとも、IOUは「将来的なユーロとの交換」を約束せざるを得ず、しかも単に「債務で債務を弁済する」だけなので、シニョリッジ(昨日のエントリー参照)が生まれるわけではないのですが。

 

 しかも、ギリシャ国民は、IOUが「本当に将来的にユーロと交換されるのか」を信じないでしょうから、
「IOCで支払う場合は、30%増しで」
 という形で、商品・サービス価格に手数料的なものが乗ることになるでしょう。つまりは、ユーロとの間の「為替レート」の誕生です。


 どうですか? おカネって、おもしろいでしょう?
 
 さて、実はここからが本格的な「頭の体操」なのですが、以前もご紹介した「エクサスケールの衝撃 」において、著者の齊藤元章氏が、スーパーコンピューターを用いた「使う人により価値が変わるおカネ」により、資本主義の複数の問題(特に、ピケティが指摘した「r>g」)を解決できるのではないかと、ソリューションを提案されていました。


 現在の「おカネ」は、誰が使用しても同じ価値を持ちます。わたくしにとっての1万円は、億万長者のA氏にとっても1万円なのです。あるいは、わたくしにとって「1万円の商品・サービス」は、A氏にとっても「1万円の商品・サービス」と言い換えた方がいいでしょうか。


 奇しくも、上記の状況は、
生産性が低いギリシャにとっても、生産性が高いドイツにとっても、1ユーロは1ユーロ
 というユーロの現実と酷似しています。ちなみに、生産性とは「労働者一人当たりの生産(GDP)」という意味で、「労働者一人当たりの所得」とイコールです。(生産=支出=所得であるため)


 つまりは、ギリシャは「所得が低い人」であり、ドイツは「所得が高い人」になるわけです。所得が低い人と、所得が高い人が「同じ価値の通貨」を使用しているのが、現在のユーロ問題の根源にあります。これは、良い悪いの話をしているわけではなく、そういう現実という話です。


 そう考えたとき、「国内」において低所得者層と高所得者層が「同じ価値のおカネ」を使用している国、つまりは世界の100%の国々は、ユーロ同様に生産性の違いにより、低所得者層が「さらに苦境に陥る」状況になりがちである理由が分かります。繰り返しますが、これは「良い悪い」の話をしているのではなく、現実がそうだというだけの話です。


 無論、上記の問題を解決するために、所得税の累進課税制度があります。とはいえ、これは齊藤氏も指摘していますが、日本はキャピタルゲインや利子所得、配当所得(つまりは、ピケティのいう「r」)が分離課税となっており、税率が所得税よりも圧倒的に低くなっています。結果的に、実際には所得格差以上に、「資本収益を含めた所得」の格差が拡大しているのが現状です。


 当たり前の話として、所得が多い人は消費性向が低くなり、所得が少ない人は消費性向が高くなるため、消費税の「逆累進性」の問題を引き起こしているのはご存知の通り。しかも、日本の場合は消費税までもが高所得者も低所渡航者も同じ税率であるため、国内の所得格差を拡大させ、中間層を減らし、最終的には「安定的な経済成長」すらをも奪いつつあるわけです。


 上記問題を解決するために、齊藤氏がICTやエクサスケールコンピューティングを活用した「累進消費税(三橋命名)」を提案されているわけです。つまりは、モノやサービスを買う際に、購入者の「所得(資本収益を含めて構わないと思います)」に応じて、商品やサービスの価格が変わる「おカネの仕組み」です。


 例えば、年収200万円の方がパン一斤を買うと、200円だったとしましょう。同じパンを、年収1億円の方が買おうとした場合、自動的に「2000円(例えばですが)」の値段になるわけです。差額の1800円は、政府に税金として移転されます(というわけで、累進消費税)。購入者の所得の把握は、エクサスケールコンピューティングが現実化した時代であれば、カード一枚で実現可能でしょう。(齊藤氏は指紋認証等を提案されていますが、個人認識が重要になるため、もちろんそちらの方が理想的です)


 上記、ソリューションが興味深いのは、「おカネの意味」を変えかねないという点です。何しろ、所得に応じて「おカネの価値」が変わって来るのです。


 結局のとこと、おカネとは「モノやサービスの購入」ができて、初めて価値を持つわけです。モノやサービスが生産されなければ、おカネには全く価値がありません。


 それにも関わらず、現在の日本は(そして、それ以上に世界が)「おカネそのもの」に価値があると勘違いした人が多数派で、国民が豊かになること、つまりは、
「国民の需要を供給能力が満たし、かつ国民が『よりいい製品』『よりいいサービス』の供給を受けることができるようになること」
 が、あまりにもなおざりにされてしまっているわけです。おカネとは、本来は「債務と債権の記録」に過ぎないにも関わらず。


 「おカネの価値が所得によって変わる」となれば、現在の世界経済の混乱の源である「金融経済の暴走」を抑制する(しかも、一気に抑制する)ことも可能となります。金融取引、悪く書けば「マネーゲーム」に興じ、巨額の所得を稼いだとしても、おカネでモノやサービスを購入しようとした際に、巨額の税金を支払わなければならないとなれば、「金融経済」の意味も変わってくるように思えます。


「消費税が累進的になると、所得を沢山稼ぐインセンティブが減り、生産力が低下する」
 と、言われそうですが、何しろ消費税は「消費しなければ、払わなくて構わない」のです。累進消費税導入と同時に、所得税を廃止してしまえば済む話です。


 実際に「税金が高くなれば、高所得者層の勤労意欲が減る」ケースがどの程度あるのかは不明ですが、少なくとも論理的には「強制的に容赦なく徴収される所得税よりは、累進消費税の方が高所得者層のインセンティブに「相対的に」影響しないのは間違いありません。


(ちなみに、わたくしは現在の日本は「逆累進課税」である消費税を減税(もしくは廃止)し、所得税の累進性を強めるべきという意見です。これは、あくまで現在の「おカネの仕組み」に則っています。「おカネの仕組み」が変われば、当然ながら別のソリューションが適切になるでしょう)


 ついでに書いておくと、金銭目的の「犯罪」が相当程度に減りますので、日本の治安はますます良くなっっていきます。


 さらに、「価値の変わるおカネ」により高所得者層から低所得者層への適切な所得移転を拡充可能となります。ここで言う「適切な所得移転」とは、
「高所得者の所得を機械的に低所得者層に移転させる」

 いわゆる「ベーシックインカム(負の所得税)」ではなく、累進消費税により政府の財政を安定化させ、ピケティも提案していた、
医療、教育、年金などを、万人にとって公平な公的サービスとする
 という意味になります。おカネを移転するのではなく、公的サービスの充実により「所得創出」と、国民生活の安定化を図るのです。中間層の雇用や所得が安定化し、さらに適切な公的サービスが保障された社会こそが、民間最終消費支出や住宅投資を拡大し、経済成長率を最大化することは、過去の歴史からも明らかです(いわゆる、西側諸国の「黄金の四半世紀」)。


 「価値が変わるおカネ」は、金融の暴走を抑え、所得格差を縮小すると同時に、「中間層を中心とした内需拡大型経済成長」を実現する可能性があるわけです。


 逆に、現在のようにおカネの価値が「誰にとっても等しい」経済の行く末は、まさに「ユーロ圏のギリシャ」同様に、所得の格差が「持続不可能」な状況に開いていき、社会や世界を不安定化させてしまうことになりかねません。といいますか、「加盟国にとって価値が同じおカネ」という共通通貨ユーロの顛末を見ていれば、「誰にとっても等しい価値のおカネ」の経済の行く末が想像できるわけです。


 そういう意味で、ギリシャをユーロに残したままの唯一の解決策は、
ギリシャにとっての1ユーロを、ドイツにとっての1ユーロよりも減価する
 になるように思えます。例えば、ギリシャの1ユーロを、「実際はドイツの0.5ユーロ」という形にしてしまえば、ギリシャ政府の債務問題は相当に解決に近づくことになります。もちろん、債権者側(ドイツやフランスの銀行)は絶対に認めないでしょうけれども。


 といいますか、ギリシャの1ユーロをドイツの1ユーロよりも減価させるならば、普通にギリシャがドラクマに戻り、為替レートの「暴落」をすれば済む話になってしまいます。結局、ギリシャ問題の最終的な解決は、ユーロ離脱以外にはないわけです。(ユーロ建て対外債務は、100%の確率でデフォルトになるでしょうが)


 本日のエントリーは、累進消費税にせよ、ギリシャのIOC導入にせよ、現時点では思考実験です。とはいえ、読者の多くの皆様にとって、 おカネの意味を改めて考える一つの切っ掛けになったのではないでしょうか(そう、願います)。


 齊藤氏は「エクサスケールの衝撃 」において、「おカネの存在しない社会」まで提案されていますが、本件についても近いうちに、考察してみたいと思います。


 というわけで、明日は「おカネの意味を正しく理解している人」と、「おカネの意味を全く理解していない人」の討論の話題です。


本日・昨日のエントリーで、改めて「おカネの意味」を考えて下さった方は、

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