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『自然失業率①』三橋貴明 AJER2014.12.16(3)

http://youtu.be/AjgzRylJOYk

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 1854年、安政南海地震が発生し、現在の和歌山県や高知県、大阪府などに大津波が押し寄せ、数千名の死者が出てしまいます。


 地震発生時、紀伊国広村(現在の和歌山県有田郡広川町)の庄屋であった濱口儀兵衛は、村の高台に住んでいたため、海が一斉に引いていくのが見えました。


 大津波が来る、と判断した濱口儀兵衛が村を見ると、折り悪く「祭りの準備」に忙殺されていた村人は、誰も津波来襲に気が付いていません。このままでは、村人が全滅することになります


 濱口儀兵衛は積んであった脱穀を終えた稲の束(稲むら)に松明で火をつけました。高台で煙が上がるのを見た村人たちは、火事を消しとめるべく坂を上ってきました。


 そこに、津波が押し寄せ、村人たちは命が助かったわけでございます。いわゆる「稲村の火」の物語です。物語版「稲村の火」とは、微妙に細部が違うのですが、今回は史実に沿ってご紹介いたしました。


 話はここで終わりません(物語版は終わっていますが)。津波で壊滅状態に陥った村を再建し、村人の流出を食い止めるべく、濱口儀兵衛は私財を投じ、海岸に高さ5メートル、長さ約600メートルの堤防を築き、海側に松並木を植林します。いわゆる「広村堤防」です。


 濱口儀兵衛の堤防建設事業は、まさに「雇用の場」を生み出しました。本来であれば、離散するはずだった村人たちは、「雇用」されたため、村に残りました。


 そして、広村堤防は1946年の昭和南海地震から、村を守りました


 また、「稲村の火」の物語は、ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)により小説となり(A Living God)、世界に広まりました。ハーンは、1896年の明治三陸地震で2万2千人もの犠牲者が出たニュースを聞き、「稲村の火」の物語を書き上げたそうです。


 ハーンの物語は、「私財(稲むら)」に火をつけて村人を救った濱口儀兵衛に焦点が置かれていますが、むしろ重要なのは「その後の物語」なのでございます。つまりは、津波で壊滅状態に陥り、村人が暮らしていけなくなり、離散すること確実な状況で、濱口儀兵衛が私財を投じて「津波建設」という公共事業を興し、村を存続させたという偉業です。(財源は私財ですが、明らかに「公共のため」の事業なので、公共事業と呼びます)


 濱口儀兵衛の事業は、少なくとも三つの効果をもたらしました。


(1) 村に雇用を創出することで、現在の村人に所得をもたらし、離散を防いだ
(2) 堤防を建設することで、将来の村人の生命を昭和南海地震から守った
(3) 村を存続させることで、他の地域の安全保障を強化した
 
 (3)が分かりにくいかも知れませんが、大規模自然災害が多発する我が国では、国民が「分散して暮らす」ことが、安全保障上、極めて重要です。昨日も書きましたが、「国民が助け合う」ことなしでは、この国では生きていけないのです。堤防建設事業二より、「非常事態に他の地域を助ける拠点」としての広村が存続したという話です。


 上記(1)-(3)に加え、村が再建されれば再び田畑が耕され、農産物の生産により村人に所得がもたらされることになります。堤防がない状況では、村人は安心して田畑を耕そうとはしないでしょう。
 というわけで、濱口儀兵衛は堤防を私財で建設することで、村の農産物の生産量を増やしたことになります。すなわち、生産性の向上です。
 
 さて、わたくしは最近、上記「稲村の火」の物語を、たまたま同じタイミングでお二方が語られるのを耳にしました。お一人目は、現内閣官房参与である京都大学大学院教授の藤井聡先生です。そして、二人目が、東京十八区から衆議院議員に当選された土屋正忠議員です。土屋議員は、2013年12月に成立した国土強靭化基本法をはじめとする国土強靭化三法の議案提出者のお一人です。(国土強靭化三法は議員立法だったのです)


 わたくしが先日の総選挙で土屋候補(当時)の応援に出向いたのは、国土強靭化三法の議案提出者の中で、たった一人の東京からの出馬者だったためです(そうなのです・・・)。まあ、元総理大臣について何としても比例復活させずに、落選させたいという思いもありましたが。


 自然災害大国である我が国では、「需要」は途切れることがありません。日本国民にとって、「安全という名の商品」の需要は、事実上、無限に存在するわけでございます。


 そして、需要が存在する限り、政府や民間企業が、
「需要を満たすためには、どうすればいいのか?」
 に知恵を絞り、技術開発することで、我が国は潜在GDP(供給能力)を蓄積、拡大していくことになります。潜在GDPの蓄積こそが、その国の「経済力」です。


 橋本政権期に44兆円だった公共投資は、現在は20数兆円にまで絞られてしまっています。結果、我が国の土木、建設に関する潜在GDPは弱体化してしまいました。日本で土木・建設の供給能力を毀損するということは、これはまさに国家的自殺行為以外の何物でもありません


 というわけで、日本は土木・建設の供給能力を取り戻さなければならないのですが、そのためには「長期的な仕事」が欠かせません。長期的、安定的な仕事が見込めない限り、土木・建設企業の経営者は本格的に人材を雇用しようとはせず、若年層への技術継承も進まないでしょう。


 わたくしはここ二年で、百を超える土木・建設企業の経営者の皆様とお話ししたのですが、共通して仰るのは、
突発的に巨額の予算を付けるより、少しずつで構わないので、安定的に予算を増やして欲しい
 とのことでした。まあ、当たり前と言えば当たり前なのですが。

 供給能力の回復のためには、長期という視点が極めて重要になのです。


国土強靱化「最大70兆円投資を」 自民総務会長、首相に提言
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS27H5O_X21C14A2PP8000/
 自民党の二階俊博総務会長は27日、安倍晋三首相と会談し、災害に強い国づくりをめざす「国土強靱(きょうじん)化」に2015年度から5年間で50兆~70兆円を投じるべきだとする提言を手渡した。2017年4月の消費増税に向け、基礎的財政収支を20年度までに黒字化する目標に縛られるべきではないと主張した。首相は「十分配慮する」と述べた。』
 

 マスコミは例により、「70兆円のバラマキ!」などと批判し、国民の安全保障弱体化に大いに貢献することでしょう。あるいは、

「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」

 なナイーブ(幼稚という意味)な思考形態の人は、

「江沢民の石碑を建立しようとした二階の提言など、受け入れられるか!」

 と、批判し、自らの安全保障を弱体化させることになるでしょう。

 さらに、マジョリティの国民は、

「財政破綻する日本で70兆円も無駄遣いを!」

 と、家計簿方式の思考で批判し、自分や家族、友人の安全保障強化を妨害するでしょう。


 さて、どうすればいいのでしょうか。

 答えは一つしかありません。正しい言説を、ひたすら繰り返すことです


 5年間で50-70兆とは言っても、「一年間に10-14兆円」といったシンプルな話ではなく、初年度は5兆円、次年度は7兆円といった感じで、安定的に予算を増やしていく必要があります。長期予算が不可能というのであれば、せめて「長期計画」を明示しなければ、土木・建設の経営者は本格的に「人材という供給能力」を拡大しようとはしないでしょう


 そうなると、若い世代への技能継承、技術継承が進まず、二十年後か三十年後、現役世代が引退してしまった時点で、我が国は、
「自国企業では高層ビルを建てられない」
「自国人材では大きな橋を架けられない」 
 国、すなわち発展途上国と化していることになります


 逆に、本格的に「国土強靭化」を実施し、予算と供給能力を「長期的」に回復していけば、我が国は「繁栄への道」を進むことになります。
 そのためには、「稲村の火」に代表される、「当たり前の物語」を日本国民が取り戻す必要があるのです。


「当たり前の物語」を取り戻そう!に、ご賛同下さる方は、↓このリンクをクリックを!

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