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『G0.5(後編)③』三橋貴明 AJER2014.3.18(3)

http://youtu.be/O6Ef9nfreg4

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 前回のグローバリゼーション(1900年頃から大恐慌まで)において、モノ、カネ(資本)、ヒトの結びつきを強めていった主要国では、知識人たちが、
「これだけ経済的に密接な関係を築いた以上、もはや戦争は起きえない
 と、どこかで聞いたようなお花畑チックなことを語っていました。(現実には1914年にWWⅠが勃発し、さらに大恐慌を経て人類はWWⅡに突っ込んでいきます)


 昨今でいえば、
「日中の経済的結びつきが強まっている以上、尖閣諸島などを舞台とした軍事紛争は起きない」
 と主張するようなものです。


 同じような主張、考え方は欧州でもありまして、冷戦終結後、たとえばドイツのヘルムート・コール元首相などを中心に、ロシアとの間のパイプライン拡張のビジネスが積極的に展開されていきます。ソ連時代、すなわち欧州で東西陣営が対立していた時代は終わり、「グローバルな時代が来た」というわけで、欧露間のパイプラインネットワークが強化され、「ロシアは天然ガスを売る」「欧州は天然ガスを買う」関係が成立したわけです。


 ガスの売買は両地域の関係を安定化させ、さらに欧州側は、
「安定的にロシアからエネルギー供給を受ける」
 ことで、自国の企業の国際競争力(価格競争力)を高めようとしたのでございます。


 結果、ロシアからイベリア半島にかけ、パイプライン網が網の目のように張り巡らされることになりました。


【欧州のガスパイプライン網

http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_45.html#Pipeline


 パイプラインでガスの供給を受けるメリットは、何といっても安いことです。例えば、日本はLNG(液化天然ガス)の形で天然ガスを輸入していますので、「LNG化」つまりはガスから不純物を除去し、超低温で冷却・液化するという工程が加わります。当然、ガスをそのまま輸入するよりも値段は高くなってしまいますが、何しろ日本にガスを輸出している国々は全て海を隔てており(あたり前ですが)、海を越えたパイプラインも存在しません。


 というわけで、日本の天然ガス輸入費用は高くなりがちです(それでも、東日本大震災までは長期契約等の工夫により、欧米と同価格程度でした)。それに対し、パイプライン網で天然ガスを供給してもらうことは「楽」で「安い」というわけです。


 とはいえ、パイプラインによる天然ガス供給には、一つ、大きな問題があります。ガス供給国(今回はロシア)とガス輸入国との間で、国益の衝突が発生しないことが前提になっているのです。


 少なくとも、ガス供給側が無体な真似(価格を上げる。供給量を絞る、など)を始めた場合に、きちんとそれを「懲罰」する仕組みが存在している必要があります。今回のウクライナ紛争では、「覇権国家」であるアメリカが、もはやロシアに対し軍事的に「言うことをきかせる」パワーを持たないことが明らかになってしまいました。


ロシアが1兆6千億円超請求へ 対ウクライナ天然ガス代
http://www.47news.jp/CN/201403/CN2014032201001556.html
 ロシアはウクライナ南部クリミア半島の編入に伴い、同半島セバストポリ海軍基地の貸与を受ける見返りに天然ガス代金を割り引く両国合意を破棄し、計160億ドル(約1兆6360億円)の返済をウクライナに求める方針を決めた。ロシア紙などが21日報じた。
 プーチン大統領が主宰する国家安全保障会議で決定。返済額には既に値引きした110億ドルや滞納分20億ドルなどが含まれる。
 ロシアはウクライナへの経済的圧力を強めることで、北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指す政策の放棄や、ロシア系住民が多いウクライナ東部への大幅な自治権付与などを求めていくとみられる。』


 ロシアの強硬姿勢を受け、欧州側(輸入ガスの三割がロシア産)はガスの備蓄を増やし、突然のガス供給停止に備えています。当たり前ですが、「非常事態に備える」ことはコスト的に高くつきます


 しかも、欧州はロシアからのパイプラインを前提とした「ガス供給」の仕組みを構築してしまっています。いきなり、LNGで中東などから輸入することになっても、対応できません。LNGは液化基地や受入基地など、いわゆるLNGプラントの建設が必要です。


 デフォルト寸前の国(ウクライナ)に対し、容赦なくガス代金(値引き分、滞納分)を請求するロシアに対し、エネルギー安全保障をある程度依存してしまった欧州諸国。ロシアの露骨なまでの国益追求路線を止めることができないアメリカ。


 ちなみに、ドイツはロシアに自動車などを5兆円輸出しており、しかも自国のガス供給の三割をロシア産に依存しており、現実的に「経済制裁のエスカレート」は困難です。


 もっとも、今回の件を受け、さすがに欧州側も「ロシア産石油・天然ガスへの依存を減らす」方向を目指すことになったようです。


EU首脳、石油ガスの対ロ依存削減方針で一致
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTJEA2K02E20140321
 欧州連合(EU)首脳は、ロシアによるクリミア編入の動きを受け、ロシア産石油・天然ガスへの依存を減らすとともに、エネルギーの一層の安定供給確保への取り組みを加速させていくことで一致した。
 ロシアが支払う経済的な代償は大きいとして、同国政府にさらに圧力をかける狙いがあるとみられる。
 EU内でロシア産石油・天然ガスが占める割合は約3割、ウクライナ経由の天然ガスの割合は約4割に達する。
ファンロンパイEU大統領は会議後の記者会見で「EUはエネルギー依存の削減を真剣に捉えており、会議ではエネルギー事業の新たな方策が必要との雰囲気が根強かった」とし、各国とも最大限に協力していく用意が整っていると語った。
 EU首脳は、エネルギーの短長期的な対ロ依存削減方法に関し、欧州委員会に6月までに具体案を策定するよう求めた。
 これについて、ドイツのメルケル首相は、シェールガス革命で大量の資源を確保する米国が天然ガスの輸出規制緩和に合意すれば、EUでの供給多様化は可能だと述べた。オバマ米大統領は来週ブリュッセルを訪問する。』


 結局のところ、エネルギー安全保障(エネルギーだけではないですが)の肝は「多様化」であることが分かると思います。原発だろうが、原油だろうが、ガスだろうが、水力だろうが、太陽光だろうが、風力だろうが、メタンハイドレートだろうが、オーランチオキトリウムだろうが、トリウムだろうが、
「○○に依存する」
「○○国に依存する」
 ほど、安全保障を弱体化させることはないのです。


 国家のエネルギー安全保障を考えた場合、たとえ「無駄」に見えたとしても、各種の技術、手法に投資をし、技術者や設備を確保しておかなければなりません。同時に、資源の供給源(供給国)についても、多様化、分散化する必要があるわけです。


 それに対し、グローバリゼーションとは、
「国境を越えてモノ、サービス、ヒト、カネの動きを自由化し、市場競争で勝ち組を決める」
 という発想です。すなわち、エネルギーでいえば資源の供給源が「勝ち組」に偏ってしまうことになります。なぜ、欧州がこれほどまでにロシア産ガスへの依存を高めてしまったかといえば、安くて供給が安定しているためです。一度、パイプライン網を整備してしまえば、その後は特に苦労することなくガスを輸入することができます。


「なぜ、ロシア以外の国からの天然ガス輸入を考えなければならないんだ。高くつくし、非効率だ」
 と、欧州の人々は一年前であれば言ったのではないでしょうか。

 「いざ」というときに備える安全保障強化には、当然ながら「無駄」も発生します。「無駄」の発生を許し、コスト上昇を認めてしまうと、「グローバル市場で勝てない」という話になってしまうわけです。 


 それでも、「いざ」というときは訪れるし、非常事態に備え、安全保障強化に努めなければ、長期的なコスト(経済的コストのみならず)が却って高くつくという現実を、今回のウクライナ紛争は教えてくれるわけです。


本日のエントリーで「安全保障」について改めて考えて下さった方は、

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