株式会社三橋貴明事務所
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『ドイツのユーロ(前編)①』三橋貴明 AJER2013.4.9(4)
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中経出版から「目覚めよ! 日本経済と国防の教科書
」が発売になりました。
月刊JA 4月号に「TPPで経済成長派見込めるか」を寄稿しました。
本日、13時54分からのBS朝日「午後のニュースルーム」に出演します。
http://www.bs-asahi.co.jp/newsroom/
※明日、出演予定だったBSフジ「プライムニュース」出演は一週間ずれ込み、24日(水)になりそうです。決まりましたら、また告知させて頂きます。
それにしても、ユーロというのは本当に興味深いシステムです。とにかく「国家」とか「経済」を考える上で、これほどケーススタディとして有効なものは有りません。まあ、見習うべき点が一つもないという点で興味深いケーススタディなのですが。(情報提供:TN様)
『[FT]国により価値が異なる単一通貨ユーロ
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGV15002_V10C13A4000000/
(2013年4月15日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
欧州中央銀行(ECB)の調査によると、ヨーロッパ北部の世帯当たり純資産は南欧をはるかに下回る。ドイツの1世帯当たり純資産額の平均が20万ユーロ弱なのに対し、スペインは30万ユーロ、キプロスは67万ユーロだ。誤植ではない。
ドイツの新聞は、貧しいドイツ人が裕福なキプロス人を救済しようとしているとやかましい。この解釈は間違いだが、その背景はさらに厄介だ。この調査が示しているのは富の格差ではなく、ユーロ圏諸国間に事実上の為替レートが存在しているということだ。
■ドイツ世帯の純資産はユーロ圏諸国で最低
ユーロの発足以来、ドイツでは賃金や消費者物価がおおむね一定だった。一方、南欧では賃金や物価の水準が年々上昇してきた。インフレギャップが続き、資産価格の大きな差につながった。このため、ミラノのアパートはドイツで最も不動産価格の高いミュンヘンのアパートよりはるかに高い。「イタリアのユーロ」をミラノで使うより「ドイツのユーロ」をミュンヘンで使った方が多くの不動産を買える。
ドイツでこれらの数値を巡り白熱した議論が行われる場合、焦点となるのは富の中央値、つまり世帯を資産で順位付けした時にちょうど中間にくる値だ。少数の超富裕層が土地や不動産の大部分を所有しているドイツのような富の格差が極端に大きい国では、中央値は平均値より大幅に低くなる。
中央値でみると、ドイツ世帯の純資産はわずか5万1000ユーロで、すべてのユーロ圏諸国の中で最下位になる。一方、キプロス世帯の純資産の中央値は26万7000ユーロだ。この差は、50%を下回るドイツの不動産所有率の低さで説明できる。
国ごとの比較をしたいのであれば、平均値を使った方がよい。ただ、中央値ほどではないものの、差はまだ極めて大きい。
ドイツの1世帯当たり純資産の平均が20万ユーロ、スペインが30万ユーロであり、実際はドイツは世帯当たりでそれほど貧しくない国だと考える場合、この差はドイツとスペインが実質為替レートを調整する必要がある最小限度を示していることになる。
通貨同盟内では、賃金と物価の実際の変動によってのみ調整が起こり得る。ドイツは現在インフレではなく今後もインフレにならない可能性が高いため、長期的にみてもそれは起こらないと思われる。結局この調整は為替レートの名目的変動により起こるとの結論になる。つまり、いずれかの国がユーロ圏から離脱するか、並行通貨を採用することが必要になるということだ。
個人的な経験も、こうした見方を裏付けている。1999年を振り返ると、ベルリンではレストランやタクシーの料金がブリュッセルやパリに比べて安かったと記憶しているが、今はこの差が極端になっている。不思議なことに、この価格差は貿易財にも影響を及ぼしている。国境を越えた欧州の小売市場は効率的に機能していないのだ。
こうしたことから、ユーロ圏では計算単位が実際には同じでないとの結論が導かれる。つまりスペインとドイツでは別のユーロを持っているわけだ。南欧の人が北部ヨーロッパの銀行に預金を移すのは合理的といえる。長期的に自分の持つユーロの価値を保つ唯一の方法だからだ。 By Wolfgang Munchau』
ドイツにおいて、少数の「超富裕層」が土地や不動産の大部分を所有しているという事実にまず驚かされます。。ドイツは所得格差(いわゆるジニ係数)はそれほど高くないように見えますが、富(資産)の格差で見ると、極端に高くなっているわけです。以前からこうだったのか、ユーロ・グローバリズム進展後にこうなったのか、興味深いので現在の著作(扶桑社「国家の階層(仮)」を書きつつ調べてみたいと思います。
さて、改めて「インフレギャップとデフレギャップ」の図を掲載します。
【インフレギャップとデフレギャップ】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_42.html#DGAP
ドイツは欧州で最も潜在GDPが高い国で、特にITバブル崩壊後にバランスシート不況に陥ってしまったため、インフレギャップは縮小していました(もしくはデフレギャップの状況に陥っていた)。すなわち、ドイツのインフレ率が上昇することは、ドイツ「一国」としてみれば、まず考えられません。(ドイツ以外では、オランダ、ベルギー、フィンランドも潜在GDPが高い)
それに対し、他のユーロ加盟国は基本的にインフレギャップの状態です。結果的に、少なくともドイツよりはインフレ率が必ず高くなります。
デフレギャップ、インフレギャップは何で判明するかと言えば、大雑把なことは貿易・サービス収支を見れば分かります。潜在GDPが高い国は、供給能力が国民の需要を満たして余りあるため、貿易・サービス収支は黒字化します。
逆に、潜在GDPが不足している国は、貿易・サービス収支が赤字化します。
記事中に出てくる実質為替レートとは、物価の変動も加味した為替レートになります。と言いますか、ユーロ圏では名目的な為替レートは変わりません。ドイツの1ユーロは、イタリアの1ユーロと同じ「名目的」な価値を持ちます。
デフレギャップのドイツのインフレ率が0%、インフレギャップのイタリアが10%とすると(例えばの話)、ドイツの1ユーロは、
「一年前と比べて、イタリアで製品やサービスを購入する際の購買力が10%落ち込んだ」
という話になるわけです。
インフレ傾向にあるイタリアでは、国民の給与所得も上がっていきます。それに対し、ドイツは上がりません。
こうなると、確かに「輸出競争力」という面ではドイツが次第に有利になりますが、国民は対ユーロ諸国で見ると「相対的に」貧しくなっていくことになるわけです。
結果的に、
「ドイツの1世帯当たり純資産額の平均が20万ユーロ弱、スペインは30万ユーロ、キプロスは67万ユーロ」
などという妙なことになってしまうわけでございます。
実際の購買力で見れば、ドイツの1世帯の純資産額20万ユーロ弱とは、購買力で見て「ドイツ国内では」十分な純資産額なのかも知れません(そうなのでしょう)。とはいえ、ドイツ人が資産として貯めておいたユーロを他のユーロ加盟国で使おうとすると、実質為替レートの違いにより「貧しさを実感する」という事態になってしまうわけです。
この奇妙な状況は、名目的な為替レートが変動することによってしか是正されません。とはいえ、ユーロ加盟国間で名目的な為替レートの変動は有りません。
そうなると、記事中にもありますように、
「いずれかの国(例:ドイツ)がユーロ圏から離脱するか、並行通貨を採用する」
ことでしか調整されないということになります。
何が何だか分からなくなってきたと思いますが、要するに「ドイツの1ユーロ」と「イタリアの1ユーロ」あるいは「スペインの1ユーロ」は、実際には同じ価値を持っていなかった、という話です。すなわち、本来はインフレ率の違いにより生まれた購買力の差を調整するために、名目為替レートが調整されなければならなかったにも関わらず、それを無理やり「政治的に」抑え込み、ドイツ人が他ユーロ加盟国人と比べて相対的に貧しくなっている、という話でございます。
すでに何度この言葉を繰り返したか忘れてしまいましたが、つくづく「歪んでいる」システムです。共通通貨ユーロとは。
さて、ドイツではついにユーロ圏からの離脱を目指す新党(ドイツのための選択肢)が結成され、先日(4月14日)に初めての党大会が開かれました。
4月11日に発表された世論調査では、ドイツ国民の4人に1人が9月の総選挙でユーロ離脱を主張する政党に投票する用意があると回答したとのことでございます。
2012年以降に世界各国で行われている総選挙は、その「根っ子」に「グローバリズム」と「国民経済主義」の縄張り争いが見え隠れしています。ドイツ総選挙で「ドイツのための選択」が一定の勝利を収める可能性は、決して低くないと考えているわけです。
筆者同様に「ユーロとはつくづく歪んだシステムだ・・・」と思われた方は、
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Klugにて「三橋貴明の『経済記事にはもうだまされない』」
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