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■政府支出の拡大(主に内陸部の公共事業拡大)
■民間銀行への融資拡大命令
政府支出の方はそれなりに機能しているようですが、民間銀行の融資拡大の方は企業の設備投資には向かわず(民間需要が収縮している以上、当たり前)、銀行が不良債権化を恐れた結果、資金を切実に必要としている中小企業にも向かっていません。結局、民間銀行がばら撒いたマネーは、不動産や株式に向かうしかなく、再び経済のバブル化が進行しているわけです。
ちなみに、日本の高度成長は【個人消費拡大】+【公共投資拡大】という二つの国内需要拡大のために、民間企業が設備投資を拡大した結果、達成されました。中国はこれと同じ路線を今回狙っているようですが、あまり巧くいっていないようです。
「いや違う!高度成長は輸出拡大により達成されたんだ!」
などと主張する人は、↓この冷酷な数字をきちんと説明しなければなりません。
【日本の輸出対GDP比率、輸入対GDP比率推移 1955年-1991年】
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_20.html#Kodoseicho
高度成長期の日本の輸出対GDP比率は10%未満が続いており、石油ショック後に上昇した後も、結局14%には届きませんでした。
日本の輸出対GDP比率が戦後最高に達したのは2007年の15.5%ですが、これは恐らく今後数十年間は破られることのない金字塔だと思います。なぜならば、この数値は、アメリカが不動産バブルに酔いしれ、アメリカ国民がホーム・エクイティ・ローンなどで「借金による消費」を拡大し、アメリカのGDPに個人消費が占める割合が七割を超えるという、異様な環境下で達成されたものだからです。
日本の輸出対GDP比率が2007年を上回るには、↑これに匹敵するほどの外需拡大がなければならないわけですが、どう考えても非現実的でしょう。
ちなみに、わたしは別に日本の輸出産業を卑下する気は全くありません。現実に、2007年のような外需拡大局面は、しばらくは訪れないと言いたいだけです。そうである以上、日本は別の成長路線を志向するしかないのです。
2007年は、日本だけではなく中国の外需依存も絶頂に達した時期でした。
同年の中国の純輸出対GDP比率は9%に近づき、その内の何と八割が対米貿易黒字だったのです。すなわち、2007年の中国のGDPの7%強が対米貿易黒字、アメリカ人の借金による消費だったわけです。
中国の「輸出対GDP比率」の方は35%前後と、高度成長期はもちろん、2007年の日本を遥かに上回っています。中国の輸出企業には中小企業が多く、彼らは現在の外需激減で大ダメージを受けています。
資金繰りに難儀をしている中国の中小企業は、資金を切実に必要としており、中国人民銀行は元々は彼らを助けるために、同国の商業銀行に融資拡大を命じたわけです。ところが、不良債権化を恐れた中国の銀行が中小企業への融資を拡大せず、資金需要のない大企業を中心に融資を拡大した結果、現在の不動産と株式のバブルを招いてしまったわけですね。
中国の場合、共産党が銀行に、
「おらっ!融資を何千億元、拡大せいっ!」
と命じることができますが、他の国はそんなことはできません。また、たとえ融資拡大を命じることができたとしても、中国のように肝心の中小企業にお金が回らないケースもあるわけです。
一般の国が今回のようなバブル崩壊を迎えると、中央銀行が政策金利を下げていきます。
ところが、バブル崩壊により大企業が債務返済を優先すると、金利がゼロにも関わらず誰もお金を借りないという異様な状況に陥ります。そもそも企業が融資を受けるのは「投資拡大」が目的ですので、需要が拡大していない中、融資で投資を拡大する企業は少なくなります。(本来は、こういう時期こそ投資を拡大するべきだ、という考え方もありますが。)
大企業がお金を借りなくなると同時に、中小企業の方は銀行の融資基準厳格化を受け、資金繰りが悪化していきます。いわゆる「貸し渋り」「貸し剥し」の発生ですが、大企業と中小企業の扱いが異なるのは、何も中国に限らないのです。
『ドイツでクレジットクランチ発生のリスク-ターゲスシュピーゲル紙
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=amSi22JWKT.Q
ドイツでは、金融機関が融資基準を厳格化していることから、クレジットクランチが発生するリスクが高まっている。ドイツ紙、ターゲスシュピーゲル(オンライン版)が、ドイツ使用者連盟(BDA)のディーター・フント会長の発言として報じた。(中略)
また、中央銀行が銀行セクターを介さず企業に直接融資するという選択肢は「真剣に検討されるべきだ」との見解を明らかにしたという。 』
今回の不動産バブルとは縁がなかったドイツですが、やはり外需激減の影響は大きく、景気悪化とクレジット・クランチ(信用収縮)が進行しています。
中国の銀行と同じく、ドイツの銀行も企業融資基準を厳格化し、企業の資金繰り悪化を招いているのです。そしてドイツは中国と異なり、銀行に「融資目標」設定し、それを守らせるなどという荒業はできません。
そもそもドイツ(ドイツだけではないですが)は、金融政策を自国だけでは実施できません。ユーロに加盟しているドイツは、金融政策の多くをECB(欧州中央銀行)に委譲しているのです。
『独連銀が社債を直接購入する可能性も、信用不足緩和に向け-財務相
http://www.bloomberg.com/apps/news?pid=infoseek_jp&sid=a0aJDcxrntOE
ドイツのシュタインブリュック財務相は9日、ドイツ連邦銀行(中央銀行)は企業からの社債購入を通じて信用不足を緩和する可能性があると指摘した。同財務相は今週、独連銀による直接介入について示唆していた。
シュタインブリュック財務相は独紙フランクフルター・ルントシャウとのインタビューで、「場合によっては、独連銀は社債を購入する可能性がある」と語り、「このように、独連銀と実体経済が直接コンタクトを取る新たな局面を迎えるだろう」と述べた。(後略) 』
ドイツ連邦銀行(ECBではなく)が企業の社債を購入することで、クレジット・クランチを緩和するというのは、対策としては真っ当です。しかし、中央銀行による社債購入とは、要するに「量的緩和」です。金融政策について、事実上、ECBとドイツ連銀が分担する形になってしまうことになります。
例えばECBがインフレ防止の金融引締め(利上げなど)を行う裏で、ドイツは「自国のための」せっせ、せっせと企業の社債を買い上げていくような状況が、現実的に起こり得るわけです。これはかなり無理があるのではないでしょうか。
と言うか、そもそもドイツ連銀は「どの通貨」で社債を買い上げるのでしょうか?
ドイツのクレジット・クランチの進行は、「ユーロ」の矛盾について、次第にあからさまにしつつあります。個人的には、今回の危機が終焉を向かえ、パラダイムシフトが完了した後もユーロ圏が今のままで存続しているとは思っていません。
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