人気ブログランキングに参加してみました。よろしければ、↓このリンクをクリックを。
http://blog.with2.net/in.php?636493  

 経済評論家として名高い長谷川慶太郎氏は、2007年まで「世界的なデフレの時代が来た」という主張を展開していらっしゃいました。BRICSなどの生産能力が上昇することで、世界的な供給過剰により物価が持続的に下落し、余剰資金はインフラ投資に向かう、という流れの予想でした。
 が、残念ながら長谷川氏の予想は真逆となり、現在は世界的なインフレーションが加速しています。
 長谷川氏にとって最大の誤算は、余剰資金が向かう先を間違えた事だと思います。世界的にマネーが余るまでは良かったのですが、その資金はインフラ投資ではなく、主に食糧や資源へと向かいました。アメリカ政府の景気刺激策(金利下げ)も投機マネーを刺激し、資源高を引き起こし、これがますます実体経済にネガティブな影響を与え、アメリカの利下げを呼ぶ悪循環に陥っています。
 アメリカの利下げは資源高に加え、ドル安を引き起こすことで、ドルペッグ制を取る各国の物価上昇率を危険な数字にまで押し上げています。

http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_06.html#CPI2008Mar

 2008年5月10日の日経新聞の記事から作成した上記グラフを見ると、主に「ドルペッグ制または管理フロート制」を採っている国、及び「資源輸出国」の物価上昇率が悲惨な状況になっています。ベトナム、シンガポール、中国は管理フロート制、ロシア、サウジは資源輸出国です。更にサウジはドルペッグ制を採用しています。
 これら物価上昇率が高い各国では、問題の質がそれぞれ異なるので、一緒くたに「物価上昇」とまとめてしまうのは、よろしくないかも知れません。
 例えばサウジは資源高そのものよりも、ドル安(ユーロ高)により欧州からの輸入物価が上昇していることが、庶民の生活に多大な悪影響を与えています。サウジ及び他の中東諸国では、単純労働やインフラ維持を基本的に低賃金の外国人労働者に依存しています。元々、非常に劣悪な環境で働かされていた外国人労働者を、物価高騰が直撃するわけです。
 外国人労働者の不満が人種的、階級的な対立を巻き起こさないか、非常に心配です。何しろUAE(アラブ首長国連邦)では、特に住宅の賃貸価格著しく、前年同期比で17%も上昇し、アブダビの住民の消費支出の45%(!)が住宅関連なのです。支出の半分近くが住宅費用なのです! 国から手厚い保護を受けている国民はともかく、安価な労賃に喘ぐ外国人労働者の負担は、想像を絶します。
 サウジ、UAEなどの中東諸国は、完全なドルペッグ制を採用していますので、アメリカの利下げに合わせて自国でも利下げを行わねばなりません。ただでさえインフレの状況で、利下げを繰り返さざるを得ないのです。かといって、ドルペッグを解消すると、更なる(恐らく途轍もない)ドル安を引き起こしかねないので、ドルと物価に挟まれた中東諸国は出口のないジレンマに苦しんでいます。
 ロシアの場合は、資源高の恩恵が、主にモスクワなどに居住するエリート層に集中しているという問題を抱えています。モスクワや聖ペテルブルグなどの一部の大都市を除くと、ロシアの地方は全く開発が進んでいません。
 しかも資源大国、そして世界最大の領域を持つ国だけあって、ロシアのエネルギー消費の効率の悪さは半端じゃありません。2004年のデータですが、GDP1000ドルを生み出すための必要な最終消費エネルギー量は、日本が72kgであるのに対し、ロシアは何と1286kgです。エネルギー効率が、日本の17分の1なのです。
 ロシアの場合は階級闘争ではなく、インフレーションにより地域的な対立が高まるのではないかと危惧しています。
 資源大国ではない中国、ベトナムなどで最も心配しなければならないのは、スタグフレーションでしょう。中国については「本当にヤバイ!中国経済」で書きましたが、ベトナムのグエン首相は5月6日、急激な物価上昇に対応できなかったことを「経済政策の失敗」として認めました。
 本項の冒頭に書いたように、世界的な生産能力自体は充分に足りており、むしろ工業製品については供給過剰な状況です。問題は今の物価上昇が、主に「食糧」と「資源」という、人間が生きていく上での必需品に偏りを見せている点です。
 工業製品について供給過剰ということは、中国は言うまでもなく、ベトナムなどの新興工業諸国においても、今後は失業率が上昇していく可能性が高いということです。インフレーションと失業率の双方が同時に上昇していく。つまり、スタグフレーションです。
 日経新聞では、ついに初めて世界的な「スタグフレーション」(なのでは?)という論調の記事が載りました。(前から載っていたかも知れませんが、わたしがこの「単語」を見たのは、今年初めてです。)

『日経新聞 2008年5月10日 総合3面「政策運営、募るジレンマ」
 当局が金融緩和→商品への投機過熱→実体経済が悪化
 世界的なインフレ圧力を前に各国当局に手詰まり感が強まっている。景気減速に対応した利下げや資金供給によって投機マネーが商品市場に流れ込み、さらにインフレを加速させる悪循環の様相が強まっているからだ。
 「経済はミニスタグフレーション」。九日の経済財政諮問会議に出席した伊藤隆敏東大教授はこう語った。景気減速と物価上昇が同時に起きるのがスタグフレーションだが、その小型版が世界で進んでいる。
 好景気で需要が増え、物価が上昇した場合は経済の過熱を抑えるために金利を上げる。逆なら金融を緩和し、需要を刺激する。教科書的な対応は、国際的な商品高という「外部要因」による物価上昇には通用しない。日銀の白川方明総裁は「物価と景気が同じ方向のときは金融政策はやりやすいが、食い違っているときは難しい」と語る。(後略)』

 ちなみに、日本も物価が上昇しているのは確かですが、未だにCPI上昇率は1%台。08年3月の完全失業率は3.8%(総務省 労働力調査より)で、前月よりも0.1%低下しました。様々な幸運(?)が働き、世界的なインフレ圧力(及び供給過剰)の影響は、日本の場合は今のところ軽微です。
 勿論、今後は徐々に悪影響が大きくなっていくと予想されますが、この場合、日本のメディアはすぐに「スタグフレーションだ!日本経済は終わった!」論を展開するでしょう。(確信あり)
 例によって例による、この手のミスリードが報道された際は、きちんと世界や他国の状況と比較し、日本における影響と、今後の展開を考えることが重要になると思います。前にも書きましたが、誤った情報を元に問題の本質を掴み損なうと、解決できる問題も解決できなくなってしまいます。

 人気ブログランキングに参加してみました。よろしければ、↓このリンクをクリックを。
http://blog.with2.net/in.php?636493  

 新世紀のビッグブラザーへ ホームページは↓こちらです。
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/index.htm
 新世紀のビッグブラザーへ blog一覧は↓こちらです。
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/blog.html