現在、世界で進行している信用収縮、金融危機は、あまりにも規模が巨大で、影響範囲をなかなか捉え切れません。その中でも、今日は問題の根幹と言って構わない、アメリカのサブプライム問題について。

 サブプライム問題についても、人によって様々な問題の捉え方があります。わたしの場合は、サブプライム問題を史上最大の「モラルハザード」として受け止めています。今回の問題が含有しているモラルハザードは一つではなく、幾つもありますので、少し整理しておきたいと思います。

銀行のモラルハザード:証券化により、ローンのリスクを他者に転嫁する事が可能になり、銀行はリスクを度外視した住宅ローンを大量に貸し付けました。
 しかもローンの多くはノンリコースローンであり、貸付の担保は借り手の信用(返済能力)ではなく、不動産そのものでした。つまり銀行は、証券化でリスクを逃れるのに加え、不動産が値上がりし続けるという、無謀な前提の元にローンを貸し付けていたことになります。
 「不動産は値上がり続けるだろうから、ノンリコースローンで、借り手の信用は無視して貸してしまおう。どうせ他人に売り払ってしまうローンなんだし」と考えたわけです。

不動産ブローカーのモラルハザード:意外に知られていない気がしますが(日本のメディアでは全く語られないため)、アメリカの住宅ローンの多くに「不動産ローンブローカー」が関与していました。
 ブローカーの多くは零細企業、あるいは個人で、様々な金融機関の住宅ローンを取り扱います。要は、住宅ローンの販売代理店なのですが、特定の金融機関に配下にあるわけではありません。
 ブローカーはとにかくひたすら電話を掛けまくり、アメリカ人に住宅ローンを売りまくりました。ブローカーは販売した住宅ローンから手数料を抜き、収益を上げる仕組みになっていました。
 ちょうど日本の携帯電話ビジネス興隆期に、販売店が手数料で稼ぎつつ、通信キャリアの端末(と通信サービス)を販売したのと似たモデルですね。携帯電話と住宅ローンでは、商品の額が桁違いですが。
 金融機関としては、面倒な借り手の信用力審査をブローカーが代行してくれる(という建前)わけで、ブローカー経由でガンガン住宅ローンを貸し付けていきました。
 ブローカー経由で販売した住宅ローンがデフォルトすると、ブローカーが代わりに銀行に返済しなければなりません。が、ブローカーの中には大量のサブプライムローンを貸付け、リセット(金利見直し)前に廃業してしまう「確信犯」が続出したようです。ブローカーたちが販売したローンが破綻しても、廃業されてしまえば、銀行側は責任追及のしようがありません。
 ブローカーとしては、リセット前にとにかく大量の住宅ローンを売りまくり、手数料を稼いで廃業してしまえば、大儲けの上に責任も追及されないという、少々信じがたいモデルになっていたわけです。ブローカーが英語も読めないような移民、あるいは返済能力皆無の相手であっても、説明も適当にローンの契約書にサインさせていったのも、当たり前といえば当たり前なのです。
 ビジネスモデル自体が、モラルハザードを引き起こすロジックを内包していたわけです。まあ、これは証券化ビジネスも同じですが。 

借り手側のモラルハザード:住宅ローンの借り手のモラルハザードとしては、二つあげられます。
 一つ目は、不動産が値上がりしている状況であったため、金利が上昇し、元金返済が始まるリセットの前に売り払ってしまえば、最低限の投資でキャピタルゲインを得ることができると考えた事です。
 特にアメリカの場合、住宅は日本のように固定資産ではなく「流動資産」になります。新築住宅に重きを置く日本とは異なり、売買前提の「商品」として、アメリカ人は住宅を購入したのです。そのため、不動産価格が下落した場合に、「まあ、一生住むから、別にいいや」という考え方にはなりません。逆に「一生住むから」という発想ができるのならば、どう考えても継続的な支払いが困難な住宅ローンは組まないでしょう。
 借り手側のモラルハザードの二つ目は、住宅価格の値上がり分を新たに借り受け(ホームエクイティローン)、自分の収入に見合わない消費にふけったことです。しかし、このアメリカ人の「借金による消費」が、21世紀上旬の世界経済の成長の原動力だったわけですから、皮肉な状況ですね。
 世界経済は、結局のところアメリカにおけるモラルハザードの蔓延のおかげで、ここ数年間は成長できたわけです。

 ちなみに、わたしの最新作は中国本と銘打ってはいますが、↑こういった話が山ほど出てきます。お楽しみに。