2006年7月20日に、OECDが日本の相対的貧困率はOECD諸国の中でアメリカに次ぎ、二番目に悪いと発表しました。これを受け、各メディアが大喜び。格差やら二極化と絡めて報道を繰り広げました。

 読売新聞の記事は、まだリンクが残っていました。

非正社員増加が背景…日本の貧困世帯率ワースト2
http://job.yomiuri.co.jp/news/jo_ne_06072111.cfm

 これだけ見ると、「ああ、日本は貧しくなったんだ・・・」と誰でも思いますよね。
 果たして、日本は本当に貧困者が多い、惨めな国なのでしょうか?

 まず、貧困云々を語る前に、この「相対的貧困率」についてご説明します。
 相対的貧困率とは「年収が全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合」を示します。
 例えば、国民の年収の中央値が500万円であれば、その半分、250万円に年収が満たない国民の割合が相対的貧困率になります。
 ということは、新卒の年収が低く、年を経るごとに年々年収が上がっていく傾向が強い日本人(つまり殆どの日本人)の場合、若年層と高齢層の所得に大きく差が出てしまう。そりゃ、相対的貧困率が他国より高くて当たり前でしょう、というのが一点。
 自慢じゃないですが、わたしの初任給は月に20万円位でしたので、相対的貧困率で言えば、確実に貧困層でした(笑)。大学時代は(当然)更に年収が少なかったので、相対的貧困層どころではないです。だからと言って自分が貧しいという意識は皆無でした。

 次に、日本で相対的に貧困な人が、果たして世界的に見ても貧困層と言えるレベルなのか?というポイント。
 下記は、2002年調査の、各国の人口の下位10%貧困層の平均年間所得と、同じく人口の下位10%貧困層の年間所得の合計です。
http://members3.jcom.home.ne.jp/takaaki.mitsuhashi/data_03.html#Jinkou

 日本の人口の下位10%貧困層の年間平均所得は、$12,894で、ルクセンブルグやノルウェーに次いで、堂々の第三位。
 都市国家や人口の少ない国々を除き、人口5000万人以上の国々で見ると、日本の貧困層が圧倒的な高所得である事が分かります。人口5000万人以上の国では、他にドイツとフランスが何とかベスト15に入っているだけです。
 $12,894と言っても、日本は物価が高いから暮らしは貧しいだろ、などの理屈を言うなかれ。
 デフレと価格破壊を経て、ビッグマック指数でも見たように、日本国内の物価は諸外国に比べると、安くなっているのが現状です。「日本は物価高」など、もはや世迷言でしかありません。少なくとも日本国内における$12,894は、物価高に悩むヨーロッパにおける$12,894よりも、はるかに価値があります。 
 また、貧困層平均所得のベスト15に、発展途上国の中国や韓国が入っていないのは分からないでもないですが、アメリカや英国までもが入っていないのは、注目するべきでしょう。ちなみに、アメリカの数値は$6,730、英国は$5,504でした。
 一応人口大国である日本が、人口の下位10%貧困層の平均年間所得がベスト3であるため、年間所得を合計すると巨額になります。さすがに人口が二倍以上のアメリカにはかないませんが、それでも合計金額が16%程度しか差が無いのです。
 つまり、日本の貧困層(に位置づけられてしまう人々)の所得は、世界的に見ても圧倒的に高く、生活レベルも他国の(真の)貧困層とは比較にならないのです。

 このように、貧困層(と位置づけられる人々)の所得や生活レベルが比較的高い日本を、相対的貧困率「だけ」を見て「貧困だ!貧困だ!」と騒ぐのはおかしくはないでしょうか?

 何もわたしは、日本に貧困問題が無いとか、格差は問題ではないとか、極論を言うつもりは全くありません。上記のように、多面的な視点を国民に提供するのが、本来のメディアのお仕事ではないか、と言いたいのです。
 OECDのリリースを丸写したり、自分に都合の言いように書き直すだけなら、誰でもできますよ。わざわざ新聞刷らなくても、ブログでいいんじゃないですか? ね、メディアさん。