「初乗りで不安もあるだろうから、知った顔を見ると、少しは安心してステージが出来るかもしれない」

ファンの身勝手で都合の良い妄想が、初乗り劇場へと向かわせた。

「俺がいればきっと喜んでくれるにちがいない」

と。ポラのコメントは、お世辞でも

「力になったよ」

と書いてくれる(笑)。それだけで客は悦を覚えるものだ。

 

まさご座は大阪二館を押さえた上での観劇となり、寓居から3時間弱を要するので、何らかの大義を必要とされる。それが初乗りという、これがあまりにも大きな理由となるわけであった。それに加え、見慣れた劇場よりも、新天地の劇場のゆえの違った印象を受けるのが、新鮮でもあり、大いに魅力的でもあった。

 

昨年初秋、望月きららちゃんのまさご座初乗りの際、私は岐阜へと向かったのであるが、プロの踊り子なんてものは、箱サイズに合わせ、瞬時にその最適なステージへと昇華させるのを垣間見ると、私の踊り子の見る目はどこまでも確かであった。初乗りゆえのステージの稚拙さや不安などは微塵も感じさせず、まるでホームで踊っているかのような既視感を抱き、当初の懸念を通りすぎ、こちらまで楽しませて貰った。

                                                                                                      

そしてしばらく行かないうちに、まさご座はいつの間にかデジタルカメラに変わっていた。私はここと温泉地の劇場ぐらいは、ポラ機で良いのでは無いかとさえ思っている。昭和を遡り、あたかも大正ロマンを醸す場内には趣がある。鋼鉄の固く冷たい椅子とは違い、柔らかい温もりのある絨毯に胡坐をかいてストリップを観るのも良いものだ。ホームページも刷新され、古き良きところを残しつつも、時代に合わそうとする劇場経営に好感が持てた。小さなロビーには、ステージ写真の閲覧や販売、Tシャツなどもありその一端が伺えよう。

 

アンケート用紙やリクエスト用紙も置いてあり、

「ファンの声など届くはずがない」

とこれら劇場のこういった類には、相手にしないものだと決め付けるよりも、そういうものだと常に思い、少しでも反映されればと書く方が、この場合客として正しい。事情はわからないが、過去の出演踊り子をみると、ロックと東洋所属以外は乗るのが容易に理解出来るので、どこまで私の切望する踊り子が選ばれるかはわからないものの、書かぬよりはマシと、これを機会に片っ端から書いていった。当然その中に石原さゆみちゃんの名前も私は書いた。

 

手を伸ばせば届き、彼女らに息がかかるほどのカブリの近さは、それはそれで魅力的でもあるが、すり鉢状のまさご座は、盆に入れば、前列は見上げる状態になり、私にとって決して良い席とはいえない。ベッドショーの時、目線が同じ高さになる2列目のセンターこそがこの劇場でのスーパーシートとなる。息はかけられなくとも、甘い香水は漂ってくるこの場所で観たいと思っていた。オフ空けだから、きっと初日から2演目を出してくれるに違いない。

 

1結の東洋ショーでは、引退のそぶりを全く感じさせなかったが、その翌週に出た雑誌で引退発表をした。その後のブログでは、創作意欲もあり、演りたいステージがあり、引退までの間に新作を出すと語っている。言いたいことはあまり言えないのであろうが、ファンを気遣い、どこまでも明るく振る舞っている。必ず来る踊り子の引退が、予想以上に早かったこと、それは十分承知の上で、引退はさゆみちゃん本人の意志であるから尊重されたい。ホームで引退興行をやるというなら潔いではないか。例え何年踊り子をやっていようとも、好きな踊り子の引退の寂しさというのは、どうやっても拭い切れないものなのだ。

 

まさご座は初乗りにしてラストステージとなる。これほどまでにドラマティックでセンチメンタルに浸れる観劇も珍しいだろう。4月には晃生ショーのコースがあり、これが関西ラストになるのであるが、これも私自身が必ずしも行けるとは限らない。行ける時に、観られる時に行かなければ必ず後悔する。

「踊り子とはこれが最後になるかもしれない。そう思って常に観よ」

と過去に先輩方から教えを頂いたことがある。初めの頃は良く理解出来なかったが、これが何回もそう言った状況に置かれると、現実味を帯びて来る。この景色が遠くならないうちに、私はさゆみちゃんのステージを少しでも多く観ておく必要がある。

 

開演前に並んだ事すらない私が、この席を獲得するために急いで身支度をし、半年ぶりに自転車に跨った瞬間、ズボンが破れ、タイアがパンクしており、スタートから出遅れた。確か午前9時半頃に出発したはずであったが、東海道線のダイアの乱れもあり出足から躓いた。いつものように、途中入場となるのは、事前の準備が足りなかったが仕方あるまい。受付の方は愛想が良く、綺麗な女性の方で変わってはいなかった。満員の場内から観えるのは、浜崎るりちゃんのベッドショー中で、初日から盛り上がっていた。当然、目当てだったシートも座れる筈も無かったのであるが、ここはどこからでもはっきりと観える劇場だから全く問題は無かった。

 

 

20173頭 まさご座

(香盤)

  1. 大月サヨ(フリー)

  2. JUN(西川口)

  3. 園田しほり(杉プロ)

  4. 浜崎るり(晃生)

  5. 石原さゆみ(道頓堀)

 

 

女性らしい線の細さに丸みもあり日本人らしい色白で、若さもある。選曲も独特でそのステージには独創性と世界観がある。会う度に、彼女の演りたいものと私の観たいもが合致していくのであるが、これが良い感じで無いところを突き、私の心が奪われ、虜となっていく。回を重ねるごとに、未見の演目に出会える喜びを強く感じていった。ダンスを経てベッドショーに入ると色気も加わり、触れることが許されぬ踊り子への羨望がより強くなる。これで客は、男は理性を保てなくなり制御が効かなくなる。さゆみちゃんのステージには恐ろしいまでに中毒性があり、その杯に口を付けると、抜け出せなくなり、深みに嵌っていくのであった。

 

With a taste of poison paradise I'm addicted to you Don't you know that you're toxic?

 

1回目の演目は、以前に晃生と東洋で観たセーラー服の演目。初乗り、初日の1stステージを観られた。さすがに色んな思いが交錯し、まともに目をやれない(笑)。1結東洋以来であったが、非常に長く感じたものだ。本舞台と花道の段差へ目線すらやらず、まるでいつも場所で踊っているかのように、全くそれすら気にする素振りすら見せない。いつものさゆみちゃんらしいステージであった。とは思うものの、2曲目からそのステージに釘付けになったのであるから、ファンというものは現金なものだ。

 

2回目はCAの演目である。紺のセパレートのミニで、艶めかしく舞った後、椅子を使ったベッドショー。その後の立ち上がりから、心地よいリズムに乗せ、徐々に盛り上がっていくラストが見所であろう。途中、ピッタリのタイミングでアナウンスも入るのであるが、それもキュートであった。ファンの方によると、昨年の周年の前に出した演目とのことである。昨年からかなりの頻度で、さゆみちゃんを観ているはずであったが、ここに来て初めて観る演目があるとは望外の極みであろう。

 

さすがに3回まで観たら日付が変わりそうだと思い2回目終了で、泣く泣く劇場を後にする。

「あらら。雨予報だったかなー」

と灰色の空を見上げたが、駅までの道のりを走った。下りのダイアも乱れ、濡れて重たくなった体で、岐阜駅で50分の待ち惚けを喰らった。この時間を、先ほど目に焼き付けたさゆみエアラインに乗って帰阪することを空想するのには、調度良い長さだった。

 

観劇日:3/1(水)