アニメ 映画「空の青さを知る人よ」 感想 | FXで有り金全部溶かした友達の顔を見てみたい。

観てきました、3か月ほど前に。

 

 

「あの花」「ここさけ」スタッフの3作目。

「空の青さを知る人よ」

舞台は3作目も秩父でしたね。

 

監督:長井龍雪

シナリオ:岡田磨里

キャラデザ:田中将賀

 

 

PVやCMを事前に観て、これは微妙そうだな・・・と思い映画を観にいったのですが。

映画を観終わった後も感想としては同じことを思いました。

 

 

今回の映画は希望に溢れた高校生と希望を見失った30代の大人、2つの年齢層のキャラを軸に物語を描いています。

なんだろう、最近の映画こういうの多いですよね。

しかも、どちらかと言えば、高校生よりも30代の二人にスポットが当たっていたように思います。

「とらドラ」「あの花」をリアルタイムで観ていた高校生・大学生の視聴者は確かに30代の大人にはなっていますが、オタクとは別にしてもお金を落とす年齢層が30代だから、こういった作品になったのでしょうかね。

 

 

あらすじ

高校2年生になる相生あおいは姉であるあかねとともに暮らしており、音楽漬けの毎日を過ごしていた。一方、あおいを心配するあかねは13年前に両親を失くしたことが原因で、高校卒業後に恋人の金室慎之介とともに上京することを断念せざるを得なくなり、現在は地元の市役所で働いている。妹のあおいは自分を育てるために自分の好きなことを犠牲にしている姉のことをとても気にかけていた。そんな慎之介は高校卒業後にミュージシャンとなるべく上京してデビューしたのだが、全く売れずに鳴かず飛ばすの状態が続いていた。そしてそれが影響して、地元への連絡もままならなくなっていた。

ある日、あかねの地元で行われる音楽祭に、演歌歌手である新渡戸団吉が出演することになったのだが、その新渡戸がバックミュージシャンとして指名したのが慎之介だった。そんな時、13年ぶりに慎之介が地元に戻ってきた。そして時を同じくして、13年前の世界からやって来た18歳の慎之介=しんのがあおいの目の前に現れ、あおいはしんのに恋をする。そんな中、31歳の慎之介とあかねは久しぶりの再会を果たそうとしていた。

 

岡田磨里さんのシナリオの特徴って、印象に残る言葉や描写を作中で何度も出しますよね。

それが作品のキーになっているのが魅力でその言葉や描写をなぞる様にシナリオが構成されているので、観ていて気持ちが良いです。

「とらドラ」や「花咲くいろは」「荒ぶる乙女」のシナリオを手がけた時もその手法が1話と最終話で使われて、それだけで作品が締まるというか、キレイにまとまるように感じます。

今回の映画では「井の中の蛙、されど空の青さを知る。」という言葉が印象的でしたし、登場するメインキャラを表すのにこんなにも合う言葉があるのかって思うくらい馴染んでいました。

 

全体のシナリオとして随分と展開が少ないように感じます。

この映画は自分のやりたいことや夢を諦めてしまった30代の二人の背中をあおいが押してあげる内容になっているのですが、あおいもしんのに恋をして、30代の二人に協力すれば、大好きなしんのがいなくなってしまうという葛藤があり、そのせいで物語が進みません。

 

あいみょんの劇中歌が流れてから、物語が加速しますが、それでもまだ面白いと思える水準には到達できなかったように思います。

 

そもそも、あおいを中心に物語が描かれますが、イマイチ彼女にはスポットが当たらないというか、完全に恋のキューピット役に徹していて、青春を謳歌する姿をあまり感じなかったように思います。

本筋の中心にいるのは30代の二人なのだから、あおいは出番もっと少なかったほうが良かったのでは?

そもそも、しんのという存在はいらなかったのでは?後押しする役割を全部あおいにあげれば、見易いよう思うんですが、それだとドラマ性がないかな・・・。

慎之介が高校生の時に抱いていたポジティブな気持ちをしんのは当然持っていて、慎之介は最後までそれに否定的な駄目人間になっているのも彼の魅力を損なっています。

そして、ヒロインの危機になっても自分から行動できない最悪な男になってしまいました。

これはしんのに役割を与えすぎたせいでしょうね。

 

ただ本筋だけ観ていれば、メッセージ性のある良い作品ではあります。

ありふれてはいますが、高校生の時に抱いていた憧れや希望や挑戦的で純粋な気持ちを大人になって忘れてしまう。

現実にもある身近な題材で、社会に出ることで自分の考えと社会とのギャップに打ちのめされ、いつの間にか安定と惰性を求めるように強いられている方が実際多いと思います。

そんな状況で過去の自分と向き合っても、社会を知らない青い考え方だと受け入れようとしないでしょう。

ただ、その青い考え方が正しくないともハッキリは言えないと思います。

全力を出さずに諦めた人が大半だからこそ、努力が実らないと0であるとは言えません。

慎之介もその一人でしんのに引きたてられ、次は全力を尽くして夢を叶えようと決意します。

 

あかねに関しても、あおいを育てる為に自分の人生を犠牲にしていましたが、あおいはあかねの知らないところで立派な女性になっていて、劇中であかねがそれに気づき、これからを自分の人生のために生きようと決意していました。

 

シナリオに掛けていたのはこの結果までのドラマやプロセスが弱かった点だと自分は思いました。

 

しんのがいなくなって、悲しむあおいでしたが、泣き止んで空を見上げて、エンドロールに入っていきます。

恐らく、彼女は空を見上げた時には気持ちが吹っ切れて、今までの経験を糧に生きていくのだと、そう感じられるラストでした。

 

 

それにしても、岡田磨里さんは言葉選びが上手ですよね。

秩父という周りが山に囲まれた盆地を閉鎖的でここから抜け出せないようになっているみたいな事をあおいが詩的にぼやいていましたが、あかねの言う「井の中の蛙」と同じ状態を表しています。

ただ二人の考え方の違いとしては、あおいは環境だけが自分を縛っているというのに対し、あかねはもっと複雑なものに縛られているような感じでした。

あおいの言葉からはこの環境から抜け出せれば自分は自由になれるという楽観的な考えでしたが、あかねはそうではありませんでしたね。

 

 

 

 

作画は安定していますが、昨今のアニメ映画に比べれば、飛びぬけてぬるぬる動くシーンはありませんね。

そもそも作画を動かす場面も少ないですし、前作の「ここさけ」も似たような感じでしたから。

 

 

 

3作品の中で正直、一番面白くなかったです。

メッセージ性とそれを感じられる映画にはなっていますが、肝心のシナリオが簡素すぎます。

テレビアニメであれば、この内容でもいいと思いますが、映画であるなら、ラストまで盛り上げる起爆剤のようなものがほしいです。

 

 

 

秩父シリーズと言っていいのか分かりませんが、イマイチ映画2作はヒットしませんでしたね。

どちらも興行収入は約10億円。

2013年くらいに「あの花」がテレビ放送され、オリジナルアニメとしては大ヒットし、それ以降、このスタッフで作品を制作しているにも関わらず、何で伸びていかないんでしょうかね。

キャラデザに関しては新海誠作品にも参加していたりもするんですが。

個人的にジブリ出身の監督や新海誠、細田守に負けないポテンシャルをこの作品のスタッフは持っていると思います。