将棋の叡王戦五番勝負で、挑戦者の伊藤匠七段が3-2でタイトルを奪取した。
叡王だった藤井聡太竜王・名人は、七冠に後退した。

「七冠に後退」という表現は、普通は出てこない。
それが彼の凄さともいえる。

ところで、メディアの中には

「254日天下」で終わる

というような記事もあった。
上に「全冠制覇は」とつければ、明らかな間違いとは言いにくいが、八タイトル中の七冠保持者は、十分に天下人だろう。
席次の上でも、別格タイトルの竜王と名人を含めて四冠以上を保持するか、竜王または名人のいずれかを含む五冠以上を保持すれば、必ず全棋士のトップに来る。残りのタイトルを誰が保持しようと。

実は、竜王・名人の二冠だけでも棋士の序列第1位は確定する。
ただ、この場合、たとえば他の六冠を全て保持する棋士が出た場合、メディアは(そして多くのファンは)六冠の方が強いと考えるだろう。

もうひとつ、「254日天下」について。
この手の言葉は明智光秀の「三日天下」あたりに由来するのだろう。
(ただし、光秀が信長を討ってから秀吉に敗れるまではもっと長い。)

「藤井八冠」は2023年10月11日に王座獲得で誕生し、竜王、王将、棋王、名人と防衛。
2024年6月20日に叡王を失冠した。
たしかに両端入れでは254日になるが、その間、4タイトル(つまり半分)を防衛し続けたのだから、立派なものだ。
1年の2/3以上にわたって全冠制覇していたのだから、短さを表す「〇〇天下」の言葉はふさわしくない。

それより、この強い八冠王を倒した新叡王を讃えるべきだろう。

これで、藤井さんも伊藤さんも、より熱心に研究に打ち込み、将棋の深淵に踏み込んでいくだろう。
他のライバルたちも同様。
将棋という文化のためには、八冠体制打破はよいことではなかっただろうか。