脳外科医の見た天国と神

エバン・エレキサンダーというアメリカ現役脳外科医の書いた「天国の証拠(原文はProof of Heaven):脳外科医のかいま見た死後の世界」というのを読んだ。脳外科医が髄膜炎にかかって、昏睡中に、臨死体験して、天国に行って神に会って会話したという内容だ。


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原作は去年の10月に出版され、ニューヨークタイムズ紙ベストセラーランキングですぐに一位となり、一年経った今でもランキング入りしており、アマゾンでも全米総合部門52位だ。これほど、売れているのは何故か知らないが、たぶん、アメリカではオカルトやニューエイジムーブメントがまだ人気あるからだろう。日本でもスピリチュアルがまだ人気が続いていて、矢作直樹という東大の救命センター部長兼教授が何やら怪しげな本を書いている。


前置きが長くなったが、この脳外科医の描いた本は、単なる小説として読んだ方がいいだろう。信憑性もないし、偽りのスピリチュアルメッセージを流布させている可能性があるから。根拠を述べると、

まず、原因不明の重篤な髄膜炎にかかって、奇跡的に後遺症なく治癒したと言っているが、医学的にはそんなことはないと思われるから。
原因不明なことは臨床ではいくらでもある。
重篤というのも全然重篤ではない、他にいくらでもいる。
昏睡状態と言うのは、この脳外科医が病院搬送時に暴れて興奮して痙攣も起こしていたから、ベンゾジアゼピン系かMajorで鎮静をかけられたのだろう。そしたら、眠ったままベッドで何もできず、変な夢を見ながら、いつもとは違う髄膜炎の状態でしかも癲癇で脳の過興奮の状態なら、妙に生き生きしたリアルな夢を見たって不思議じゃない。
7日目に治ったっていうのは、病状が普通に回復して(抗生剤も投与していたし、免疫能の普通な健康成人なんだから髄膜炎は一過性で普通に治るであろう)目が覚めたのは、鎮静剤を漸減中止し、血中濃度が充分低くなったからと思われる。奇跡でも何でもない。
そもそも、発症した原因は、鼻腔か目のあたりに大腸菌の付いた汚い指で吹き出物か何かをいじくったからか?

そして、神との会話で得たことが『あなた(アレキサンダー氏)は愛されてます。あなたは何も恐れることはない。あなたは何も悪いことはしていない』『すべて良し(今のこの生を自由に楽しく過ごしなさい)』ということだったとのことだが、それでは、人生の意味やこの世の存在意義やこの世の不幸を何故神は放っておいているのかなどについての答えが何もない。

つまり、この臨死体験で得られたことは、誰でも思いつく人間的な内容なのだ。もっと斬新な内容で、誰もが考え付かなかった知らなかったことを教えてくれるなら、信憑性があるのだが、あまりにも、内容がなく、非常につまらない内容だった。

ちなみに、読んだ印象として、英語の表現は、かなり冗長で、自己顕示欲の強そうな自慢話の多い内容で、作者の人間性が何となく想像できた。