母の最期の言葉は
「お母さんのところへ行く」
だった。
ずっと前に亡くなった母親の話を
病床に臥してから
再三
母は私に聞かせた。
兄弟姉妹4人の次女で
24歳の時
香川県から東京にお嫁に来た。
母親への甘えが
十分足りていなかったのだろう。
死ぬことによって
先に亡くなった母親のいる世界へ行き
もう一度甘えよう
という希望的なストーリーを
創ったわけだ。
死後の世界があるかないかは
どうでもいい。
死のうとしている人と
残された遺族が
少しでも
その苦しみから逃れられるストーリーを
信じ込むこと
それは
死という体験したことのない恐怖から
お互いの気持ちが救われるために
必要なことなのではないだろうか?
私は信仰を持っていないが
母の最期の言葉によって
救われた気がする。
久しぶりにお母さんと会って
娘(私)の愚痴でも
聞いてもらってるのかな
と微笑ましく思えるからだ。
未知の恐怖に向かおうとする時
人はなんとかして
その中に希望を見出そうとする。
死にゆくに人の
そんな感情を知った時
遺族は
救われるのではないだろうか。