寒い寒い寒い寒い．．．。
年末だし、大掃除をしなきゃ、と書庫
に入った登記子は、思わず息を呑み込
んだ。
そこには、あの、ねずみさんが、いた。
「ねずみさん．．．？」
「やあ、ひさしぶり」
「あの、ねずみさん．．．？」
「そうだよ。あの、ねずみだよ」
「え、もうあれから１０年以上経って
ない？なんでそんなに変わらないの？
ねずみでしょ？」
「だから世間一般の常識で考えちゃ
ダメなんだって」
「どういうこと？」
「今やＡＩが人間の思考能力を上回る
時代だよ。今までどおりの考え方をし
てたらダメなんだって。何回言ったら
わかるの」
「常識は通用しないってことね」
ま、たしかに、ねずみと話をしている
時点でかなりぶっ飛んでいる。
「ちゃんとがんばってる？」
「ええ、まあ、一応」
「一応、じゃダメなんだよ。もう１０
年も経つんだからね」
「早いですね。いつのまにか１０年
たった感じです」
「まあね。時間の経つのは早い。僕た
ちもうかうかしていられない」
「今、何をしてるんですか」
「今はそうだなあ、ハヤシくんと次は
何をしようかと話してる」
「ハヤシさんは、また何か始めるんで
すか」
「乙号の教材をサブスクにしようって
言ってる」
「サブスク？ちょっと何言ってるのか
わからないですね」
「教材の値段が高いとちょっと手を出
しにくい」
「うんうん、そうですね」
「だから、月５００円の乙号事務オン
ラインで読み放題にして、そこで好き
なだけ勉強してもらおうって」
「あー、なんかもう乙号の教材の販売
はやめる、とかブログで書いてました
ね、そういえば」
「そう。だから、最終セールで今だけ
全品半額なんだ」
「宣伝ですか」
「まあ、そんなところだ。登記子ちゃ
ん、どうせハヤシくんのブログなんか
読んでないだろうからな」
「時々、見てますよ。最近はなんか変
なことしてるな、とか」
「まあ、ハヤシくんもいろいろ迷走し
てるからね。あたたかい目で見守って
あげて」
「はい」
「とりあえず、乙号事務オンラインに
は入ってね。あと、全品半額は３０日
までね」
「あれ、３１日じゃなかったんですか」
「あー、ハヤシくんにも文句を言った
んだけど、３１日の０時までだから、
実質３０日までなの」
「あ、そうなんですか。わかりにくい
ですね」
「だろ、これだからハヤシくんは困る
んだ。じゃ、また」
「あれ、ほんとに宣伝だけのために来
たんですか」
「そうだよ。よいお年を。来年もいい
一年にしようね」
「はい。よいお年を」
そして、ねずみくんは、また書庫の奥
に消えていった。
と思ったら、またすぐに帰ってきた。
「あ、そうだ、思い出した」
「なんですか」
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