総司編7 | ぶーさーのつやつやブログ

ぶーさーのつやつやブログ

艶が2次小説と薄桜鬼ドラマCD風小説かいてます。


「こんな時間になんでしょうね」

つい先ほど寝ころんだばかりのソファから起き上がり、部屋の入り口まで歩いて行く。

ベッドから入り口までは部屋の構造上もあって、微かに話声が聞こえる程度だった。

ガチャンとドアの閉まる音が聞こえたので、ベッドサイドにあるつまみで部屋を少し明るくすると、大きなバースデーケーキが乗ったルームサービスのワゴンカーを押しながら総司さんが戻って来た。

「そ、れ・・・」
「はい・・・これも土方さんですよ、きっと」

呆れた顔で、ケーキの横に置いてあった小さなカードを手にとって溜息を吐く。

「やっぱり・・・」

ぽいっとカードをソファの方に投げて、せっかくだけどもうお腹いっぱいですしね、と笑ってまたソファに寝転がった。

あ、そう言えばもう12時過ぎたのかな。

ベッド脇のデジタル時計を見ると23:59の表示。

・・・私もプレゼント持って来てたんだった!

なんだか忙しなくて忘れていたけれど、悩みに悩んで選んだプレゼントをいつ渡そうかとバッグに入れたままタイミングを逃していたのだった。

「あの、総司さん」
「は、はい・・・ケーキ、食べますか?」

相変わらずトンチンカンな事を言われたけれど、そんな事に構っていられないとベッドを飛び出し、慌ててバッグの中から小さな包みを取り出す。
私の行動に驚いて、総司さんがソファから起き上がる。

デジタル時計の表示が00:00になったのを確認して

「お誕生日おめでとうございます・・・あの、これプレゼントです」

両手で総司さんの目の前に差し出す。

「えぇっ!?これ、僕に・・・ですか?」
「はい、気に入ってもらえるといいんですが・・・あ、でも全然高価な物じゃなくて申し訳ないんですけど」
「そんなっ!あ、有難うございます・・・」

しばらく掌の中の小さな包みを見つめて、丁寧に開いてゆく。
箱を開け“ラペルチェーンブローチ”を取り出す。

私が総司さんのプレゼントに選んだものは、男性がスーツの襟もとに飾るチェーンタイプのブローチだった。
メンズの人気ブランドの新商品で、ちょっと奮発してしまい先月のバイト代がほぼきれいさっぱりなくなってしまう位の価格だった。

「お仕事でも使える物が良いかと思って」
「はい、こんな素敵な物を・・・本当に有難うございます!」

浴衣の胸にあてて、どうですか?とにこにこする総司さんを見て、贈ったこっちまで嬉しくなってしまう。

「ふふっ、お似合いですよ」

笑顔で返すとまた、有難うございますと繰り返して箱に戻し、大事そうにバッグへとしまった。
次の出勤日から早速使います、とほほ笑んでソファに腰を下ろす。

「では、おやすみなさい」

総司さんは何度目かのおやすみなさいを言って、再びソファへと身を預けた。

私もベッドに腰を下ろし、また部屋の明かりを暗くしてゆっくりと身体を横たえた。

そっと息を吐き出して、目を閉じる。


今回の旅行で総司さんともっと仲が深まるかも、なんて期待はずれもいいとこだよね。
花ちゃんが電話で言った様な「もしも」なんて、結局なかったし・・・。


それだけを期待していた訳じゃなかったけど、でもやっぱりお互い子供じゃないんだし、と考えて、寝がえりを打つとソファの方でも枕の位置が定まらないのか、総司さんが何度か身じろぐような音が聞こえる。

「・・・・・・あの」

言ったのはほぼ同時だった。

「・・・えっ?」

薄暗い部屋の中、上体を起こして足元の方にあるソファを目をこらして見る。

「あ、いえ・・・その、お先にどうぞ」
「いえ・・・総司さんお先にどうぞ」

日本人特有の譲り合いが何度か続いて

「じゃあ・・・」

総司さんはクッションを抱きしめてソファから立ち上がり、こちらに近づいてくる。

「僕も、ベッドで寝てもいいですか?」
「!!」

はい、と答えたつもりだったけれど、ベッドに向かってゆっくりと歩いてくる総司さんのシルエットにドキドキと心臓が壊れそうな程激しくなってしまい、声が掠れてしまった。


もし先を譲られていても、ベッドで寝ませんか?と言うつもりだったのに。
いざ向こうから言われるとこんなに緊張しちゃうなんて・・・。


私が寝ている逆の方に腰掛けて枕替わりにクッションを置く。

あまりにも恥ずかしくて、総司さんがやって来た方向とは逆の方へ向きを変えてシーツをかぶる。
幸いベッドはキングサイズ、端の方へ寄らなくたって2人で寝るには十分な大きさだ。
それでも思わず逃げるように身体をできるだけ隅へ寄せてしまう。

絹擦れの音で総司さんもベッドに身体を横たえたのが伝わってくる。

さっきまで少し期待していたくせに、いざ横に総司さんがいると思うと鼓動は早くなる一方だし、身体がカチカチになって、シーツをすっぽりかぶっているせいか息をするのも苦しい。

シーツを顎の下までずらし、とりあえず顔だけ出して呼吸を整える。

総司さんも反対の方を向いて寝てるのかな・・・。

様子を伺おうと首を捻って自分の肩越しに振りかえると、妖艶な頬笑みを湛えて、目を開けてこちらを見つめている総司さんの視線とぶつかる。

な、何か言わなくちゃ・・・。

「やっぱり、ソファは寝づらかったですよね?」

身体の向きと首を間逆の状態にしたまま尋ねる。

「いえ、そういう訳じゃ・・・」

ふっと総司さんが目を細めて、またすぐ真面目な顔に戻る。
その真っすぐな瞳に射抜かれて、聞こえてしまうかと思うほど胸が高鳴ってゆく。

「ただ・・・」

肩をそっと掴まれて、身体を仰向けにされる。

「・・・」

総司さんはそれ以上何も言わずに、私にゆっくりと覆いかぶさった。

上から落ちてくる総司さんの長い髪ではっきりと表情は見えないけれど、苦しいような困ったような、切ない顔で頬を染めている。

やがて綺麗な顔が近付いて、私は目を閉じた。

ほんの一瞬、唇が触れるだけの軽い口づけ。

「あなたに、こうしたくて・・・なんだか眠れなくて・・・」

まだ私の上に覆いかぶさったままの総司さんの胸に手を当てると私と同じぐらい、もしかしたらそれ以上に彼の鼓動も早かった。

「私も・・・」

まだ真上で頬を染めている彼の唇を今度は私から奪う。

軽いキスじゃない、大人のキス。

唇を離してからとんでもなく大胆な事をしてしまったと、茹でたようにかぁっと顔が熱くなる。

ふいに強く抱き締められ、ぴったりと身体が密着する。

私からも背中に手を回すと、耳元で総司さんが囁く。

「・・・好き、です」

突然の告白を受けて、じわりと温かいものが胸の中に溶けだした。

「・・・あ、私も・・・総司さんが、好きです」


そうなんだ・・・私は総司さんの事を好きになってしまっていたんだ・・・。


私の返事が予想外だったのか、総司さんは顔をあげてちょっと驚いたように目を丸くしていた。

「え?そ、そう・・・なんですか?」
「え?あ、はい・・・そう、なんです」
「どうしよう・・・」
「えっ?」
「凄く嬉しくて・・・」

そう言ってまたぎゅっと私を抱き締める。








総司さんのキスはとっても優しかった。
キスだけじゃない。
目が合うと、照れながら好きです、と繰り返して。
私が声を漏らすと嬉しそうに目を細めて。
大切な物を扱う様に、丁寧に。

それでいて、ずっと繋いだままの手は力強くて―――――――








朝、目を覚ましてから今もまだ、目が合うとなんだか照れくさくてお互い笑ってしまうけど、手は繋いでいなくても心は完全に繋がっていた。




早めにチェックアウトを済ませて新幹線で東京へ戻る道中、僕とお付き合いして下さいと、古風な感じで総司さんから言われた。
順番が逆になってしまってごめんなさい、といかにも彼らしい一言も付け足して。

私は笑顔ではい、と頷いた。


次の日、この時のことで土方さんに詰め寄ると

「俺に感謝しろよ」

とだけ言ったらしい。

この事をまた総司さんはぶつくさ文句言っていたけれど、土方さんの計らいでこうなったのだから、と私はこっそり彼に感謝していた。

私も花ちゃんにお土産を手渡して、京都旅行の話をしたら

「その報告が一番のお土産やわー」

と笑顔で言って、私に抱きついた。









更に事実を知るのはそれからもっと後のことだったが、この日のサプライズを仕込んだのは土方さんだけの案ではなく、花ちゃんも一枚噛んでいるのだとわかった。

「総司さんにとって土方さんがお兄さんだとしたら、花ちゃんは私のお姉さんみたいなもんね」

去年の今日と同様、浴衣姿で鴨川沿いを手を繋いで歩きながらその話をすると、総司さんはふふっと柔和な笑みを浮かべて

「そうだね」

と、繋いだ手に力を込めた。






今年もまた鴨川のせせらぎと、竹細工の中から漏れる温かな光、どこからか漂うお香の香。

来年も、その先もずっと―――





≪総司編 End≫