緊張した時や集中したい時、誰もが自然と行う「深呼吸」。
しかし、医学・生理学の視点から見ると「深呼吸をしても体内の酸素量はほとんど増えない」という意外な事実があります。
健康な人の血液中の酸素飽和度(SpO2)は、普段の日常的な呼吸でもすでに96〜99%と限界近くまで満たされています。
そのため、いくら意識して大きく胸いっぱいに息を吸い込んだとしても、血液中にそれ以上酸素を取り込むことは構造上不可能です。
それどころか、「吸う」ことばかりを意識して大きく連続で吸い込み続けると、かえって体調を崩すリスクがあります。
呼気によって血液中の炭酸ガス(二酸化炭素)が抜けすぎてしまうと、血液がアルカリ性に傾き、脳の血管が収縮してしまいます。
その結果、脳への血流量が落ちてめまいや立ちくらみ、手の痺れを引き起こす「過換気症候群」のような状態に陥る危険すらあるのです。
では、なぜ深呼吸をすると気持ちが落ち着くのでしょうか? その鍵は「吸うこと」ではなく「長く吐くこと」にあります。

人間の自律神経は、息を吸う時に交感神経(緊張スイッチ)が働き、息を吐く時に副交感神経(リラックススイッチ)が働く仕組みになっています。
つまり、吸う動きを強調すると逆に交感神経を刺激して心拍数を上げてしまいますが、息をゆっくり長く吐き切ることで初めて副交感神経が優位になり、跳ね上がった心拍数や血圧が落ち着くのです。
緊張やストレスを感じた時に試すべき正しいステップは、まず「大きく吸う」のをやめ、「お腹を凹ませながら、口から細く長く息を吐き切る」こと。
体内の二酸化炭素レベルを適正に保ちながら副交感神経を素早く立ち上げることができる、これが生理学的に最も確実で役に立つ自律神経の整え方です。

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