かつて、東京での常宿は蒲田の『末広』であった。
温泉好きの私はあえて出張用に温泉付きのホテルを探したのであるが、いまから20年前、東京で温泉付きのビジネスホテルといえば、この末広と上野の『水月ホテル』ぐらいしかなかったのである。
その当時は五反田の『ゆうぽうと』が講座やワークショップの会場であったため、大阪からの出張時はいつも飛行機を使っていた。
羽田空港と蒲田は近いことが末広が常宿となる一番の理由だったのであるが、残念なことに、この末広が昨年の暮れに廃業してしまったのである。
また、数年前にゆうぽうとも取り壊しとなったため、最近の当社のセミナーは神田や上野方面に移っている。
そんなこんなで私は常宿を変えるハメとなり、現在は東京駅付近にある温泉付きのビジネスホテルが常宿となっているのである。
そして、こうした変化に伴い、最近は移動手段も飛行機から新幹線に変わっているのである。
新幹線だと、大阪から東京へは2時間半ほどの旅になる。
飛行機の場合、いったん着席すれば1時間ほどで到着するので座りっぱなしになるのだが、新幹線の場合はトイレに行ったり、車内販売を買ったりで、なにかと席を立ったり、離れたりすることになる。
ある日の新幹線、トイレに行って戻ってくると、正面から歩いてくる人が私に手を振りながらこう言うのである。
「お久しぶり! こんなところで会うなんて」
ところが、その人のことを私は見覚えがないのである。
しかしながら、私の仕事は人と会うことといってもいいようなもので、年間にのべ3,000人ぐらいの人に会う。
だからして、どこかで会った人かもしれないし、ものおぼえが悪くなった今日このごろゆえ、スパッと記憶から抜けている人かもしれない‥‥。
で、こんなときは、いちおう、「あ、どうも」と言って探りを入れるのである。
その後の会話をヒントに記憶を総動員し、脳内検索をかけるとなんとか思い出したりするのであるが、最近は検索をかけてもグルグル回るばかりでまったくヒットしないこともしばしばである。
しかも、この日は、私が「あ、どうも」と答えているのにもかかわらず、怪訝そうな顔で私のことを見るのである。自分から「お久しぶり」と言ったにもかかわらず‥‥。
そして、私の目を避けるようにしながら、彼女はこう言ったのである。
「どこに行かれるの?」
「あ、東京でヒーリングワークがあるので‥‥」
私は素直に答えたのであるが、彼女は目を合わせないどころか、私を越えていこうとするのである。
なんのことはない、私のうしろにいた人と話したかったようなのである。
つまり、彼女はまったく見知らぬ人であったようだ。
「恥ずかしい‥‥」
「じつに恥ずかしい‥‥」
‥‥‥‥‥‥‥‥。
‥‥‥‥‥‥。
「コホン」
咳払いを一つしてさっさと席に着き、Facebookなんかを見はじめてごまかしたのである。
新幹線といえば、過去2回ほど、出会いがしらの事故のようなものに遭遇したことがある。
誤解がないように言っておくが、新幹線の事故ではない。
これもやはりトイレに向かおうとしていたときのことであった。
私の前のサラリーマンが個室のドアを開けた途端、中にいたおばさんが「キャー! なにをするの!」と大声を上げたのである。
本来ならば、開けたほうがビビッてしまうような状況なのであるが、このサラリーマンは冷静であった。理系の研究職かなにかであろうか。
おばさんに向かって「カギをかけていないあなたの責任です」とキッパリと言い放ち、おもむろにドアを閉めたのである。
これはなかなかできないことではないだろうか。
私ならぜったいうろたえて、「ああ〜〜、す、す、すいません〜〜!」と言ってしまい、おばさんがカギを閉めていなかったことは指摘できないと思うのである。
このように、飛行機ではめったにないようなことが新幹線ではなにかと体験でき、新鮮な気持ちで出張している今日このごろなのである。
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