野良ネコがうちの車庫で5匹の子ネコを生んだ。それを、うちの家の中に運んできたのである。
はっきり言っておくが、まったく迷惑ではない。むしろ喜ばしいことである。
しかしながら、野良ネコの子どもであるので、母子感染によるヘルペスが半端ない。
みなさん、野良ネコを見て、目ヤニが出ていたり、ものすごい涙目になっているのに気づいたことはないだろうか。それがヘルペスなのである。
こいつが、じつに厄介なのである。
放っておくと角膜が溶けてしまう。さらに眼球破裂が起こると盲目になってしまうのである。
しかしながら、子ネコの場合、角膜はものすごい確率で再生する。長年、野良ネコの子どもばかり育てているので、そのへんの若い獣医より子ネコのヘルペスには詳しい。
今回も、5匹中4匹は、ほとんど角膜が溶けて目が開かないような状態であったので、すぐにいきつけの獣医さんに連れていった。
ここの大先生は神戸の北エリアでは権威の先生であり、臨床経験が豊富で、若手の獣医もたくさん育てている。
そして、病院は設備が整っており、ネコの血液検査も10分ほどで結果がわかる。レントゲンもエコーもほぼ人間の総合病院なみに揃っているのである。
若手の先生方は、ふだんは上品で健康な犬猫ばかり見ているのであろう。うちの野良の子ネコをもっていくと、いつも腰が引け、どもりはじめる。
そして、必ず、「お、お、大先生を呼んでまいります‥‥」という状況になる。
大先生は、子ネコの目を無理やりこじ開ける。子ネコにとってはたいへんな拷問であるのだが、少しでも目を開けられるようにならないと、化膿が進んで眼球破裂に至ってしまうのである。
で、言うのである。「癒着防止剤を出しとくから、定期的に目を開けて、塗り込んでおくように」
ほかにも軟膏の抗ヘルペス剤と抗生物質のドルマイシン、抗生物質とインターフェロンの入った目薬のロメワン、飲み薬の抗生物質と抗ヘルペス剤が出される。
ものすごい大量投与なのであるが、これぐらいはしないと助からないし、これだけしてもヘルペスにやられ、食欲がなくなり、死んでしまう子ネコが半分ぐらいいる。
ちなみに、ロメワン目薬は1本1,600円から1,800円する。私の目薬が680円なのに‥‥、である。抗ヘルペス剤なんか、ちっちゃいオロナイン軟膏ぐらいのサイズで4,000円近い。
4匹を病院に連れていくと、支払いは軽く2万円を超える。
よく、「最近、小まめに面談カウンセリングを入れていますね」などと言われるが、こちらにもこちらの事情があるのである。
さて、先ほども述べたように、生後1カ月ぐらいの時点で子猫確保してみると、ほとんどの子ネコたちの角膜は溶けている。しかし、これだけの大量投与を続けると、溶けた角膜の上に新しい角膜が作られていくのである。
その角膜もまたヘルペスによって溶けてしまったりするのであるが、クスリを与えつづけることで、その上にまた新しい角膜が再生されるのである。
そうして、ほとんどがなんとかなるのである。
これまでにわが家で飼った子ネコの中で、眼球破裂までいってしまったのは1匹だけ。なんとか片目ですんだので、“片目のウルフ”と名づけようかと思ったが、女の子だったのでやめたのである。
このように、目の癒着は治療さえ十分にするとなんとかなるのであるが、ヘルペスのせいで鼻が詰まってしまうこともよくある。
すると、ネコはどうも、においを感知してごはんを食べているようで、匂いが感じられないと、途端に食べなくなってしまうのである。これが子ネコだと、体力がないので急激に弱ってしまう。
また、ヘルペス以外にも、野良ネコの子どもは腎不全をもっていたり、内臓が未発達であるようなことも少なくなく、なかなか育つことができないのである。
ちなみに、この5匹の子ネコのおかあさんの野良ネコも、最近はだいぶわれわれになついてきた。
うまく確保できたら避妊手術に連れていきたいと思っているのだが、そうすると、子ネコが生まれなくなるので、複雑な心境なのである。
これくらいで保護します
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