またまた出張で東京にいるのである。
ゆうぽうとに泊まっているのである。
このホテルのなにより素晴らしいところは、シャワーヘッドがしっかり固定できることと、夜の講座の直前まで部屋でテレビを観たりできて、講座後には、エレベーターに乗ればすぐ自分のお部屋に帰れることなのである。
さらに14階には大浴場まである。
しかしながら、このホテルゆえの困ったことが、きょう、また起こってしまったのである。
賢明な読者のみなさんなら、もうおわかりだと思う。
クリーニングに出したいものができてしまったのである。
以前にも書いたが、われわれおデブが買い物するとき、なににいちばん困るかというと、ズボンなのである。
最近は私の懸命の努力により、シャツや上着は、カラフルでおしゃれなものを扱う店を発掘しつつあるのであるが、やはり一般店では、デブ用のズボンというと、黒か紺かグレーしかないのである。
しかしながら、最近、新しく発掘したおっきいサイズの紳士服店では、ズボンの品揃えも豊富で、いままではサイズがなくて、泣く泣くあきらめていた白系のズボンが手に入ったのである。
よって、喜んで、よくはいているのである。
ところが、こやつ、シミや汚れにものすごく弱いのである。
まあ、たしかに、最近気に入っている、ゆうぽうと前のつけ麺屋さんに行ったのは事実である。
さらに、ジョリーパスタでトマトソースのスパゲッティをおいしくいただいたのも事実である。
しかし、カレーうどんを食べたわけではないのである。
しかし、この白いズボンは私の食生活の日誌であるかのごとく、その痕跡を確実に刻み続けているのである。
そして、一日にして、クリーニングが必要な状況に成り下がったというわけなのである。
しかしながら、ゆうぽうとでは、クリーニングの取り次ぎはしていないということは以前にも書いた。
そして、ゆうぽうとの向かいにあるクリーニング屋さんは、仕上がりに3日もかかるということも書いた。
さらに、ゆうぽうと付近には、なぜか、その店以外、クリーニング屋さんが1軒もないのである。
しかしながら、出張中は代々木上原の事務所に毎日のように通うのであるから、事務所付近でクリーニング屋さんを探せばよいと、今回、白いズボンを持ってウロウロと探し回ったのである。
しかしながら、看板に、昔、クリーニング屋をやっていた名残のある家はあるものの、店は閉まっているのである。
ところが、である。
その閉まっているクリーニング屋さんの屋号を見て、私は思わず立ち止まってしまったのである。
その屋号は、私の銀行員時代の思い出があるクリーニング屋さんと同じだったのである。
そこで、きょうは少しその話をさせていただく。
銀行員時代、私は企業担当の営業で、いろいろな会社を回っていたのである。
そして、あるとき、とある大手クリーニング店A社の社長に、ものすごいお願いをしにいかなければならないハメになったのである。
月末の預金残高の目標額が1億円が足りなかったのである。
そこで、取引企業であるA社の社長に、とんでもないお願いをしにいったわけである。
「社長、すいませんけど、私どもの子会社のH銀行から1億円借りていただいて、そして、その1億円で、私どもの銀行に1カ月間だけ定期預金をしてほしいんですよね」
当然、社長は不思議そうな顔をして、私に質問してくるのである。
「平くん、お金を借りると金利がかかるよね。1カ月借りるのに、どれぐらいかかるの?」
「はい、1年で約8%です。今回の案件は1カ月ですから、1億円×8%÷12で、金利は67万円程度になります」
「で、1カ月の定期預金の利息はいくらなの?」
「はい、1カ月の大口定期預金特別金利ですので、6.5%です。今回は54万円程度です」
「そうすると、平くん、うちの会社は13~4万円ほど損することになるんだけど、どこにメリットが?」
社長は、すこぶるまっとうな質問をされてこられたのである。
私も、この話を支店長に押しつけられたときには、猛烈に抵抗したのである。
「そんな、お客さんに損をさせるような話はできません!」
しかしながら、「今回は、うちのエースであるおまえに、支店の業績がかかってるんだ!」と支店長におだてられ、渋々、引き受けたのである。
そして、あの手この手を考えたのだが、今回の場合、まったくもって打つ手がなかったのである。
そこで、直球ストレート勝負で、社長にお願いしたのである。
すると、社長は、私の目の前で、「で、うちのメリットはなんなの?」と質問してこられたのである。
それで、思わず口から出てしまったのである。
「はい、この契約をしていただくと、私が喜びます」
すると、社長は一瞬、ポカーンとした顔をされたのであるが、「あれ、それはひょっとして、月末のノルマに困って、うちに頼みにきたってことなの?」と真実を見抜き、ストレートに聞いてこられたのである。
困った私は、「その通りです」と頭を下げるしか仕方がなかったのである。
しかしながら、社長は笑いながら、「なんだ、そうだったの。だったら、そう言ってくれればいいのに」と、経理の担当部長を呼び、すぐざま契約してくれたのである。
「困ったときは、おたがいさまだからね。できることは、できるだけしてあげるから」と若造銀行員にそれは優しく接してくれたのである。
“受け取る”ことを学んだ、平準司26歳の夏の出来事であった。