石油元売りへの補助金支給は気候変動対策に逆行?日本政府の矛盾した政策を問う | 榊原平のブログ―安城·愛知から世界に学ぶ Taira Sakakibara’s Blog : A Global Learner from Anjo and Aichi

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榊原平と申します。愛知県安城市出身・在住。常に学び、観察し、考え、人や社会に共感し、このブログでは自分が学んだことや考えたことや感じたことを書いています。このブログで安城・愛知から世界へつながり(Solidarity)を作りたいと思っています。

政府が石油元売りへの補助金支給を延長する政策について、気候変動対策との関係から考えてみたいと思います。

石油元売りへの補助金支給とは

石油元売りへの補助金支給とは、ガソリンや灯油などの石油製品の価格が高騰した場合に、政府が石油元売り業者に対して卸売り価格を抑えるために支払う制度です。

 

この制度は、2011年の東日本大震災後に導入されました。当時は、原発事故や電力不足などによって石油製品の需要が急増し、価格が高騰しました。

そのため、政府は国民生活や経済活動を守るために、石油元売り業者に対して1リットルあたり最大5円の補助金を支給することにしました。

この制度は当初、2012年3月までの期間限定で適用される予定でしたが、その後何度も延長されてきました。

 

2021年11月現在では、レギュラーガソリンの平均価格が1リットルあたり170円を超えた場合に発動されることになっています。

 

政府は2023年3月までこの制度を延長する方針を示しています。

石油元売りへの補助金支給は気候変動対策に逆行するか

では、石油元売りへの補助金支給は気候変動対策とどのような関係にあるのでしょうか。

 

この制度の目的は、石油製品の価格高騰による国民生活や経済活動への影響を緩和することです。

 

しかし、その一方で、石油製品の消費量を増やすことにつながる可能性があります。なぜなら、石油製品の価格が安くなれば、消費者や企業は節約や省エネルギーのインセンティブを失い、より多くのガソリンや灯油を使うようになるかもしれないからです。

これは、気候変動対策にとって望ましくないことです。なぜなら、石油製品を使うことは、温室効果ガスの排出量を増やすことになるからです。温室効果ガスとは、地球表面から放射される熱を大気中で吸収して温度上昇を引き起こす気体のことです。

 

二酸化炭素やメタンなどが代表的な温室効果ガスです。石油製品は化石燃料の一種であり、燃焼すると二酸化炭素が発生します。

 

二酸化炭素は温室効果ガスの中でも最も多く排出されており、気候変動の主な原因となっています。

気候変動は、地球の平均気温や気象のパターンを変化させることで、自然環境や人間社会に様々な影響を及ぼします。

 

例えば、海面の上昇や氷河の融解によって沿岸地域や島嶼国の浸水リスクが高まります。熱波や干ばつ、豪雨や洪水などの極端な気象現象が頻発し、農業や水資源、健康や生命に被害が出ます。

 

生物多様性や生態系の機能が低下し、食料や資源の供給が不安定になります。経済的損失や貧困、紛争などの社会的問題が深刻化します。

日本政府は、気候変動対策に積極的に取り組むことを表明しています。2021年に発表した「国際的な貢献度目標(NDC)」において、2030年までに温室効果ガスの排出量を2013年度比で26%削減することを目指しています。

 

また、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを目標として掲げています。

 

これらの目標達成に向けて、再生可能エネルギーの導入促進やエネルギー効率の向上、炭素吸収力の強化などの施策を実施しています。

しかし、石油元売りへの補助金支給は、このような取り組みに逆行する可能性があります。石油製品の価格を人工的に安くすることは、化石燃料への依存度を高めることになります。

 

化石燃料への依存度が高いほど、温室効果ガスの排出量を削減することは困難になります。

 

また、補助金支給は税金から賄われるため、財政負担も増大します。

 

税金は本来、社会的公共財の提供や社会保障制度の充実などに使われるべきです。

 

補助金支給は税金の有効活用と言えるでしょうか。

石油元売りへの補助金支給に代わる政策はあるか。「トリガー条項」の発動

では、石油元売りへの補助金支給に代わる政策はあるでしょうか。一つの可能性としては、「トリガー条項」の発動です。

 

「トリガー条項」とは租税特別措置法第89条に基づき、「レギュラーガソリン1リットルあたりの価格が3か月連続して160円を超えた場合、ガソリン税の上乗せ分(旧暫定税率)25.1円の課税を停止し、その分だけ価格を下げる」というものです。

 

この条項は2008年から2012年まで発動されていましたが、その後は廃止されました。政府は、ガソリン税の上乗せ分を道路整備費に充てることで、インフラの老朽化や災害対策に寄与すると主張しています。

 

しかし、この主張には疑問があります。なぜなら、道路整備費の使途は必ずしも透明ではなく、無駄遣いやバラマキになっている可能性があるからです。

 

また、ガソリン税の上乗せ分は、環境税としての役割も果たしています。

 

環境税とは、環境への負荷を与える行為に対して課税することで、その行為を抑制し、環境保全に資することを目的とした税金です。

 

ガソリン税の上乗せ分は、石油製品の消費を抑えることで、温室効果ガスの排出量を減らす効果が期待できます。

 

したがって、「トリガー条項」の発動は、石油元売りへの補助金支給よりも、気候変動対策に適した政策と言えるでしょう。

 

もちろん、「トリガー条項」だけでは不十分です。

 

政府は、石油製品の価格だけでなく、その需要や供給にも影響を与えるような政策を展開する必要があります。

 

例えば、電気自動車やハイブリッド車などの低炭素車の普及促進やインセンティブの提供、公共交通機関や自転車などの代替交通手段の整備や利用促進、省エネルギー型住宅やオフィスの建設や改修などです。

まとめ

この記事では、政府が石油元売りへの補助金支給を延長する政策について、気候変動対策との関係から考えてみました。その結果、以下のような点が明らかになりました。

  • 石油元売りへの補助金支給は、石油製品の価格高騰による国民生活や経済活動への影響を緩和することを目的とした制度です。
  • しかし、この制度は、石油製品の消費量を増やすことにつながり、温室効果ガスの排出量を増加させる可能性があります。
  • これは、気候変動対策にとって望ましくなく、日本政府が掲げる温室効果ガス排出量削減目標に反しています。
  • 石油元売りへの補助金支給に代わる政策としては、「トリガー条項」の発動が考えられます。
  • 「トリガー条項」は、ガソリン税の上乗せ分を停止することで、価格を下げると同時に環境税としての役割を果たす制度です。
  • しかし、「トリガー条項」だけでは不十分であり、政府は、石油製品の需要や供給にも影響を与えるような政策を展開する必要があります。

参考記事

ガソリン補助金は効果ゼロ、業者の懐を潤すだけ ....

 

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