ある夜のこと。

 

その日は、とある仕事を頼まれ、ほぼ一日、セブ市内にて働いていた。

 

まぁ、たいした仕事ではないのだけど、何しろ私は、基本、引きこもり生活なので、クタクタだった。

 

帰りに、近所の激安なんちゃってピザを買い、アニメ動画を観ながら食べていた。

 

 

すると、何やら外が騒がしい。

 

 

「アヨー!(すみません、とか、誰かいますか、みたいな意味)」

 

と、しつこく叫んでいる。

 

 

隣の家だろう、と、気にしていなかったんだけど、

 

「たいまいさーん!」

 

と、呼ばれたので、窓から覗いてみたら、見知らぬ女性が三名・・・

 

 

見覚えはないけど、向こうは私の名前を呼んでいるし?

 

 

こちらが知らなくても、向こうは知っている、なんてことは、この辺あるあるなので、ドアを開けてみた。

 

 

私の顔を見たら、

 

「あ、たいまいさん!こんばんは!」

 

と、やけに親し気・・・

 

 

「えっと?」

 

戸惑いを隠さず対応したところ、女性は名乗った。

 

 

「あー!!」

 

確かに知り合いだった。

 

 

食事の途中だったし、疲れていたし、確かに機嫌は良くはなかったので、家にはあげず、テラスで対応した。

 

 

なにより、こんな夜にいきなりの訪問ってさ・・・

 

夫や子供がいた頃は、こういうことは割とフツウにあったけど、一人で暮らすようになってから、ウチに訪問する人なんて、近所の教会の電気代を集金するオバちゃんくらいなもんだし?

 

すっかりこちらスタイルなんて忘れているんだよね・・・

 

 

 

用件は、ある書類を日本語に翻訳してほしい、とのこと。

 

(うわ、めんどくさ!)

 

 

定型の証明書とかの類ではなく、かなりめんどくさそうだったので、断る気満々だったのだが、こういうちょっと小金を持っている女性は往々にして推しが強い。

 

 

私だって、決して気が弱いわけではないけど、有無を言わせずゴリ押ししてくるので、仕方がないので引き受けることにした。

 

 

メッセンジャーのアカウントを聞いて、急ぎだというので、翌日に仕上げ、データで送った。

 

 

 

「ありがとうございます。いくらですか?」

 

と、キタ。

 

 

いつもなら、別にいいよ、と、言うところだけど、こういうのタダでやるから、どんどん依頼がきちゃうんだろうな、と、思ったし、それに、この女性とはそれほどの繋がりがあったわけでもないし?

 

よし、金を取ろう。

 

と、思ったはいいけど、こういうものの相場とは・・・?

 

 

と、ちょっとネットで調べてみたんだけど、結構、するんだね。

 

 

それこそピンからキリまである。

 

 

散々、迷ったけど、今回は、このオバサンのいきなり訪問してくる無礼さとか、高圧的な物言いとかが気に入らず、1000ペソ(約2500円)と言ってみた。

 

それでも、ネットで見る限りの相場に比べ、安くしておいたんだけど・・・

 

 

とりあえず、金額について何も言われず、すんなり日本でいうPayPayみたいなGcashですぐに送金してくれた。

 

 

それから数日後、今度はメッセンジャーから3枚の書類の写真を送ってきて、

 

「追加でこれもよろしくー!」

 

と。

 

 

まぁ、いきなりの訪問はなかったけど、これまた有無を言わせずでさ・・・

 

 

 

思うところはあったけど、金を払ってくれるなら、仕事・・・

 

 

と、頑張って仕上げ、データを送信。

 

 

すると、

 

「ありがとうございます。いくらですか?おまけしてほしんだけど!」

 

と・・・

 

 

 

は???

 

 

 

なんかさー・・・

 

こっちも、やる前に、いくらですけどいいですか?と、きちんと聞かなかったのは悪いと思うけど、なんだこれ?

 

こちらに断るチャンスを与えずに、これはいかがなものか・・・?

 

 

と、かなりカチンときたけど、3枚のうちの一枚は、文字数が他の2枚に比べ、少な目だったから、2000ペソでいいよ、と返信したら、

 

「ありがとうございます!」

 

と、返ってきて、数時間後、送金されてきた。

 

 

 

こいつの依頼は二度と受けねー・・・

 

 

 

 

 

 

その数日後。

 

今度は、夫からビデオコールがかかってきて、夫の知り合いの知り合い(この時点で知り合いじゃないと思うけど)が、最近、日本人と結婚して、出生証明書と結婚証明書を翻訳してほしい、と言ってきた。

 

「一枚500ペソ!」

 

と、言ったけど、頼んできた夫の知り合いという人には、夫がお世話になっている、とのことで、金を取るとは言いにくいと・・・

 

 

出た、ええかっこしい・・・

 

 

ま、今や、夫に養ってもらっている身の上だし、このくらいのことはしてやってもいいかな、と、引き受けた。

 

 

翌日、早速、近所に住んでいるという夫の知り合いの知り合いが家にやって来て、書類を置いていった。

 

「明日までやっておくから、また明日来て!」

 

と、言えば、

 

「いくらですか?」

 

と。

 

 

「いや、夫が金は取るな、というから、いいです。」

 

と、言ったら、翌日、バナナとマンゴーと山ほど持ってきた。

 

 

えっと・・・

 

私、一人暮らしでね・・・

 

 

こんなにもらっても・・・

 

 

と、思ったけど、笑顔で

 

「ありがとう!」

 

と、受け取っておいたよ。

 

 

 

これが、私の知り合いなら、ケーキとか、ドーナツとかなんだけどな・・・

 

 

「キモチ」ならば、家の前のカフェの200ペソ弱のフラペチーノがよかったな・・・

 

 

金を取らないなら取らないで、こういうことになるよね・・・

 

 

などと、思いつつ、バナナ4本とマンゴー2個だけを取り、あとは親戚の洗車場に持って行った。

 

 

 

フルーツなんて、一人暮らしになってから、そういえばぜんぜん食べてなかったな。

 

 

 

久々に食べた完熟マンゴーは美味しかったよ・・・