ある夜、携帯電話が鳴った。

 

見ると、相手の番号に「81」がついている。

 

日本からだけど、知らない番号だ。

 

そもそもイマドキ電話をかけてくる日本人なんてほとんどいない。

 

 

みんなラインだ。

 

 

「日本人はライン」なんだけど、本当は私はメッセンジャーのが使いやすい。

 

あんまりラインは使わないから、どういうわけかはわからないけど、メッセージや着信が来ても、何も鳴らない時がある。

 

なので、気がついたら、メッセージが入っていた、とか、着信があった、とか、相手にすればかなり無礼な対応になってしまっていると思う。

 

 

 

話を戻すが、昨今、日本からわざわざ電話代を払って携帯電話に電話をしてくる人なんていないんだけど…って、訝しながら、

 

「もしもし?」

 

と、出た。

 

 

「ア~、たいまいちゃーん?」

 

と、陽気な声が聞こえてくる。

 

 

誰だよ?

 

って、思ったけど、向こうはお構いなしに親しげにマシンガンのように話をしてくるので、「どちら様ですか?」とは聞けない雰囲気だ。

 

それに、流暢な日本語だけど、これはフィリピン人だ。

 

とすれば、北海道に嫁いだ夫のいとこだ。

 

 

普段、まったく付き合いはないが、何年かに一度、こんな風に電話をかけてくる。

 

そしてそれは借金の申し込みだ。

 

 

確か前回は、母親が末期のガンで、治療費が必要とのことで、まとまった金を貸した・・・

 

夫がね。

 

 

 

「元気~?」

 

なんて、わざわざ電話代を払ってまで、聞くようなことではあるまい、はよう要件を言え、と思っていたら、

 

「この間、借りたお金・・・」

 

(うん、まだ返してもらっていないと思うけど、まさか追加の借金じゃないよね?)

 

↑というのは、心の声ね。

 

 

 

「返したんだけど、たいまいちゃんは知ってる?」

 

「へ?」

 

 

彼女の話では、夫が交通事故で骨折し、去年の8月に帰ってくる前に、現金書留で借金を返済した、とのことだった。

 

「たいまいちゃん、知ってた?」

 

「いや、知らない。」

 

「もう~!アイツ、しょうがないね~!」

 

 

 

・・・うん。

 

別に知らなくてもいいけどね。

 

私の貸した金を、夫に返し、内緒にされたって言うなら、キレるが、夫の金だしさ・・・

 

 

「それが?」

 

って話なんだけど。

 

 

それから、他愛もない世間話をしているので、

 

(え?何か用があって電話してくたんじゃないのかい?)

 

と、思ったけど、それからもしばらく別にどうということのない話をしていた。

 

 

そして、そろそろ切るね、みたいになった時に、もう一度、

 

「借金、返したこと、たいまいちゃんに言ってないんだ~!だめだよね~」

 

と、言われた。

 

 

電話を切り、

 

「一体、何の用だったんだ?」

 

と、頭の中が「?」になったが、用事はおそらく、借金を返したことを私に言いたかっただけなんだろう。

 

 

 

8月のことを、わざわざ今頃。

 

電話代を払ってまで。

 

 

そして、彼女はたぶん、夫が私には言っていないことは薄々わかっていたはずだが、それをわざわざ私に言いたかったのだ。

 

 

 

 

 

ずーっとずーと昔。

 

私がまだフィリピンのことなんてまだよくわかっていなかった頭の中、お花畑状態のウブだった頃・・・

 

 

「あなたの旦那さん、見たよ。どこどこで。女の人と一緒だった。」

 

と、わざわざ言いに来てくれた人がいた。

 

その人とは、それなりに仲もよく、私としては、「いい人」と思っていた。

 

「こんなこと言っていいのかわからなかったし、迷ったけど、あなたがかわいそうだから。」

 

と、ご丁寧に私のために勇気を振り絞って告げ口したことを切々と語っていた。

 

 

 

何しろ、その頃は、頭の中がお花畑だったので、夫を問い詰めた。

 

 

夫は、

 

「はぁ~?」

 

と、すっとんきょうな声を出し、そんなことはしていない、と、言い張った。

 

「そんなの嘘だ!その人と俺、どっちを信じるの?」

 

と、言われば、まだ結婚間もない私は、夫を信じるしかない。

 

 

しかし、私に告げ口をしてきた人が嘘をつくメリットはあるのだろうか?

 

何のために?

 

 

 

と、釈然としなかったが、今なら、断言できる。

 

 

 

別にこれといった理由はないんだろう。

 

 

 

 

今までそういう人をたくさん見てきた。

 

そして、そういう人は、真偽のほどはわからないけど、言わなくてもいいことをわざわざ言うのだ。

 

もしかしたら、それが元で揉めるのを楽しんでいるのかもしれない・・・

 

 

 

今となれば、もしかしたら、その人の言っていたことは本当のことだったかもしれない、とも思うが、どちらにしても、ホントのことを突き止めようとすれば、ものすごい労力とエネルギーが必要で、そんなん、実際には不可能に近いので、そのうち考えるのも面倒くさくなってどうでもよくなる。

 

とりあえず、夫が否定しているんだから、それでいい。

 

 

 

 

ところで、こういう余計なことを言う人の中に、あとで実は知っていた、と告白をするタイプもいる。

 

 

これまたフィリピン人には結構多いのだけど、まだ公になっていない状態のときには、

 

「知らない。」

 

と、言っているのだが、それが公になった瞬間、

 

「え?知らなかったの?みんな知ってたよ。」

 

って、ころりと態度を変えるやつ・・・

 

 

 

あれ、何なん?

 

 

 

 

それもきっと意味なんてないんだろうな。

 

 

 

 

 

 

それにしても、夫のいとこ・・・

 

わざわざ電話代がかかるのに、借金を返したことを半年も経ってから教えてくれてどうもありがとう。