店内に入った瞬間、「それ」がどこにあるのかわかった。
沖津は依頼主を追行しながら、店内を繁々と眺める。美術品には詳しくないが、品揃えの良い印象を受けた。
依頼解決のために来たことをほんの一時忘れ、棚に飾る様にして置いてあるワイングラスを品定めする。部屋のインテリアにもできそうだ。突然、足が止まった。店の奥にあるテーブル。その上に。
「これか」 思わず息を呑んだ。しかし写真で見たものと配色が違う。「色がね、変わるんですよ」
地球儀。球体の大きさは30センチ程度。描かれている地図は見慣れないものだ。
言い忘れか。有り難くない新事実だ。この人の言動には最初から何か違和感があった。これを持ち込んだ人のことを問いただすと、お教えできませんと返ってくる。売却者に落ち度はなく、買い取ってしまった自分がすべて悪いと言い切るような、潔い人物と勝手に解釈してしまったが、本当にそうなのか?
…考えても仕方がない。ここまで来たんだ。どうにかしなくては。
謎を解ける者を呼べ。地球儀を支える台座には、発光する文字でそう書かれている。店主は辺りを見回した。黒い影だ。
絵の具を使って描いたような、はっきりとした黒。ここには沖津と店主の二人しか居ないはず。地球儀の放つ光が、店内の壁にもう一つの人影を映し出した。聞いていた通りだが、これは参るな。ガシャガシャという金属音。人の形をした影は身動きが取れない状態で、何かに手を伸ばすような仕草をしている。
日は落ち、気温も下がってきた。局長と共に専門外の仕事に携わってきたため、それなりに知識はある。沖津は冷たい汗を流した。文字の書かれていたプレートが、水晶が砕けるようにして取り払われる。参加条件を満たした、ということか。
明らかに自分の理解の外の現象であったが、最早、後戻りはできなくなっていた。
「マッチ一本火事のもとー」「うるさい早く出ろ」 バスターズ到着。
「火は小さくとも、燃え上がる時は一気。間一髪ってところだのう」 沖津は唖然としていた。
何の前触れもなく突然に人が現れた。「儂らはお主のよく知る二人の仲間じゃ」
「色々と言いたいことはあるだろうが、何もかも後回しにしてくれい」 よく知る二人、すぐに彼らの姿が思い浮かんだ。
「ここに来ることは誰にも知らせていない」 恐怖と、好奇心の入り混じった声。沖津は図らずも、彼らの領域に足を踏み入れた。
タコヨリは説明が面倒という表情を隠しもせず言い放った。
「これから起きることはすべて現実だ。私達は閉じ込められた。時間内にこのパズルを解かなければ、上の天井に押し潰されて、紙きれの様になるだろう」「まあ、そういうことじゃ」
「しかし凄いエネルギー量だのう」 師匠は朱色の天井を見ながら髭を触った。
「あれを防ぐのは無理かもしれん」
「後発の二人がもうすぐ到着する。時間差にして正解だったな」
落ち着き払っているように見える。あれが下に降りたら俺達は。沖津は店の入口に向かって走るが、天井と同じ、揺らめく炎の様な壁が行く手を阻んだ。
冗談じゃない。夢でもなんでもない。「後悔する暇はない。お主の知識が必要じゃ」
地球儀の台座に出現したパズルの上部に、発光する文字で何か書かれている。
ヘーゼの騎士 コルヌイの巫女
金属音を響かせる人影は、変わらず手を伸ばし続けている。
「Super Shooter」