呉式太極拳の「着熟」と「懂勁」 (1) | 健康・護身のために太極拳を始めよう

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太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。


今回は前回の『…雖変化万端,而理為一貫。の続き、『由着熟而漸悟懂勁,由懂勁而階及神明。然非用功日久,不能豁然貫通焉。』の節を巡って、引き続き《太極拳論》について自分の理解と心得を踏まえ、その奥義を探ってみたいと思う。

 

「着熟」とは「着法」の熟達のことを指すが、手法をはじめ相手を勝つ為のすべての技、動作の使い方が「着法」となる。一方、「懂勁」とは端的に言えば 体に陰陽が分かることだ。「着法」を習熟することによって次第に体の陰陽を悟ってくることは、『由着熟而漸悟懂勁』の意味だ。ところが、「懂勁」のレベルまで「着熟」を達成させることはそう簡単なことではない。「着熟」から「懂勁」まで相当日数を要することは、『然非用功日久,不能豁然貫通焉』という言葉の通りだ。師の張金貴大師は、生前筆者に呉式推手の十三種手法の伝授をなさった際に、『呉鑑泉師爺が馬岳梁師にこの十三種手法を伝授するのに十三年間もかかった』と語った。「着熟」の難しさ、「日久」の度合いをリアルに感じた。

 

「着法」の中身は目に見える動作と、目に見えない「勁法」からなる。難しいのはその後者だ。「勁」と「力」の違いは他の記事にも述べたが、比喩的に言えば砲弾とミサイルの違いだ。目標を追って撃墜するように出来るには プログラミングが不可欠だ。 このプログラミングのプロセスは 太極拳の修行そのものだ。他の拳法と異なって 太極拳は「太極勁」がある。又、同じ太極拳でも 呉式は呉式の勁がある。同じ呉式でも 北方地域と南方・香港・東南アジア地域とは 若干異なる。製鉄で例えれば、温度や時間のファクターが異なれば、出来上がる鉄の特性も異なる。一般的に言えば、呉式は太極拳の他の流儀より 「柔」の成分が多いとされている。

 

目に見える動作は 言うまでもなく套路と推手の動作そのものだが、目に見えない「勁法」については、自身の「太極勁」の錬成と相手の動きへの予知・対応能力の養成という2つの訓練内容が必要だ。前者は呉式太極拳の「慢架」をはじめ、「快架」、「剣法」、「五形八法」など、呉式の独特なトレーニング方法によるもので、後者は主として相手との推手によるが、「慢架」による日頃の修行も能力養成に極めて重要だと筆者が実感している。

 

筆者の教室では、目に見える動作を「手法」、目に見えない「勁法」を「内功」とよく称するが、「慢架」の指導時に限らず、推手の指導においても後者を重視している。「着熟」は後者によって大きく左右されるからだ。