太極拳の緩急 | 健康・護身のために太極拳を始めよう

健康・護身のために太極拳を始めよう

太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。


世の中で太極拳はゆっくりした動きをする拳法だと見られているが、拳法である以上、敵との戦いを前提とする。敵からのすばやい攻撃に対してもゆっくり動けばいいかと言えばそうではないのだ。《太極拳論》の中に『動急則急応,動緩則緩随。雖変化万端,而理為一貫』という名言がよく知られている。今回も引き続き古典著作への理解をアプローチしてみることにしよう。

 

『動急則急応,動緩則緩随』 とは、相手の動きが急速であれば急速に対応し、緩慢であれば緩慢に追随するという意味だ。つまり相手の動きの緩急に常に同調することだ。これに違反すれば、推手では「diu」又は「ding」の過ちが起きてしまう。相手の動きより速ければ「diu」、遅ければ「ding」となる。 「diu」は相手に主導権を譲ることとなり、「ding」は力勝負となるか 相手に「借力打力」の機会を与えることとなる。

 

私どもが普段の套路の修行においてゆっくり動きを取るのは 「以心行気」のためだ。「意」に伴って「気」が体内の所定部位を巡るよう肢体の「鬆・緊」(陰・陽)を丁寧に行うには 一定の時間が必要なのだ。一方、肢体が機敏に動けるよう呉式太極拳のシリーズに「快拳」というトレーニング方法もある。 こうした動きの緩急トレーニングは「急応」・「緩随」の肢体能力に繋がるが、相手の動きの「先知先覚」(訳:先に知り、先に感じる) が出来なければ、「急応」・「緩随」の成功が不可能になる。 「先知先覚」が出来るかどうかは「聴勁」にかかっている。但し、「聴勁」が「懂勁」(訳:「勁」が分かる)のレベルにならなければ 十分な対応は難しかろう。

 

太極拳は、手の速い人が手の遅い人に勝つという世の中の常識を破ったと言われているが、遅いほうが良い、又は遅れても良いわけではない。『動急則急応』、『後発先至』(訳:後から発するが先に到達する)は 相手の速い動きに対し、遅れることなく、すばやく手っ取り早く動くことを示唆する。

 

『雖変化万端,而理為一貫』とは、太極拳の手法が幾らあっても「急応緩随」の原理はすべてに当てはまるとのことだ。