太極拳の対称対応原理 (2) | 健康・護身のために太極拳を始めよう

健康・護身のために太極拳を始めよう

太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。


【陰陽哲理と太極拳】


太極拳とは何か。この簡単そうに見える質問に答えることはそう簡単ではない。清代王宗岳氏が中国古代の陰陽学説の代表作《易経・系辞》や《太極図説》に基づき纏めあげた《太極拳論》のはじめに、「太極者,無極而生,陰陽之母也」と述べた。 太極は無極から生まれ、陰と陽の両面からなるという意味としてとられるが、無極は物事の静止状態で陰と陽を一つにした混合体だということに対し、太極は運動状態で陰と陽を区別するのだという。即ち太極原理では、静止状態から運動状態に入ると陰と陽を分けて動かなければいけない。


では、陰と陽とは何か。古来、背中など日の当たる体の部分を陽、胸腹など日の当たらない体の部分を陰と指すが、太極拳では、虚と実、外形と内面、気勢と精神、柔と剛、動と静などは陰陽の具体例だ。 古代の哲学者はお互いに対立している陰と陽の相互作用があらゆる自然現象の変化する根源だ、陰と陽の交替は宇宙の根本的な鉄則だと見ていた。そして太極拳はこのような哲学方法論を理論的根拠とし、武術として発展を遂げてきたのだ。

太極拳の定義の話に戻るが、太極拳とは 肢体の外形動作としての拳法と体内における種々の陰陽ファクター(太極)との有機的な結合によるものだ。体内の陰陽変化運動は外形動作を司らねばならない。言い換えれば、体内の太極運動で外形の拳法を規定するのだ。以前筆者は師匠から「一回の套路練習で内外2種の太極拳を行う」という武式太極拳の伝人・故 郝少如大師の名句を伝えられた時とても理解できなかったが、太極拳の陰陽原理が分かった今はなるほどと思うようになった。


種々の陰陽ファクターは互いに対立しているが相手がなかったら自分も成り立たない相互依存の関係にもある。前記の対称対応原理はその表れだ。


太極拳を行う際に、先ず 各陰陽関係をはっきり意識した上、その陰陽間の均衡を求めなければならない。陰と陽の均衡がなければ 姿勢の「中正」も「中定勁」もない。「中定勁」がなければ「虚実転換」もできない。前記の「対拉」(合い引っ張ること)における2つの力は常に方向が逆で量が同等でなければならない。一方、陰と陽は互いに含み合い、陰の中に陽があり、陽の中に陰があるという状態を保つ必要がある。太極図の中の2匹の魚は白魚の目玉が黒、黒魚の目玉が白ということはそれをほのめかしている。「太極勁」が柔の中に剛があり、剛の中に柔があるというのはその結果だと思う。


以下は呉式太極拳の予備式→起勢の一部の心法を例に、上記の理論を分かりやすく説明してみる。


(予備式) 

雑念を排除し、全身を緩め、リラックスの精神状態にし、体を静止した気球のようにしておく。(無極状態)


(太極起勢)

「虚領頂勁」のもと、気(意)を足元まで沈ませる。 (太極状態、上下の陰陽対拉) 両手を下から前方へ上げ、気(意)を上から地面の下へ突くように下降させる。(上下の陰陽対拉)一方、「含胸」を通じて胸腹部や腕の陰面を虚、「抜背」を通じて背中や腕の陽面を実に、気勢を柔として拡大し、精神を剛として縮小(集中)する。陰陽の均衡を取るため、相反する2つの量が常に等しくなるように留意せねばならない。

…以下略…