太極拳の理論と実践 (2) | 健康・護身のために太極拳を始めよう

健康・護身のために太極拳を始めよう

太極拳は、リラックスによるストレス解消、血行改善、膝・腰強化、病気予防などの健康促進効果以外に、小さな力で大きな力に勝つような護身効果もある。ここでは、中国の伝統太極拳の一種である呉式太極拳の誕生、発展およびその式(慢拳・快拳・剣・推手)を紹介する。

太極拳の理論への正しい認識さえあれば自動的に目的地到着になるのか 又は近道が分かれば修行が楽になるのかについてだが、答えは否定だ。太極拳の難しさはそこなのだ。一個一個の要求・要領の実現、即ち太極拳の体を作り上げることは時間のかかる艱難な作業だ。努力の度合いや諸条件によっては永遠に作業が終わらないこともある。 目的地までのアクセス方法が分かっていてもそれを実現させる所要時間(年数)が必要だしまた実際の行動と能力がなければ、結局目的達成も空論にしかならないのだ。


中国では太極拳の難しさを「太極十年不出門」(「太極拳の十年以内の練習者は人前でやるべからず」の意)の言葉で表現している。ここでいう十年を単純な西暦日数と勘違いしてはいけない。1991年、馬岳梁大師が筆者の生徒に向かって 「毎日少なくても朝晩2回は練習せねばならない」 と語った。この要求によれば、仮に1回30分、1日60分とすれば、太極拳の修行年数は 実際の修行合計時間÷365時間×西暦年数という計算になる。週に1時間の練習だと70年も正しい方法で修行を続けていってはじめて人前で真の太極拳として披露できるという理論的な推論だが、実際このようなケースはとても現実的ではない。太極拳は他の武術と比べ、動作自体が難しいわけでもなく動きもゆっくりしているし習いやすいはずなのに何故長い歳月を必要とするのか。これはやはり 「気」を「意」のごとくコントロールすることの難しさによるものだと思う。平たく言えば、複雑な拳法の動作を気功の方法で行うので難しいわけだ。武術の即効性を求めるならボクシング等 単一動作反復型の拳法のほうがいいかもしれない。師匠と弟子にもよるが 一般的に同じく3年修行した場合の対陣は太極拳の初心者のほうが負ける確率が高いだろう。一方、健康効果においては、シンプル・リピートよりはトータル・トレーニングのほうがより期待できるだろう。


太極拳を理論通りに実践できるかどうかは所要年数以外に練習条件と身体能力にもよる。体内の動きを敏感に感じ取るには「心静」の要求が極めて大切だ。邪魔されやすい環境でしか練習できない人とそうでない人、公私とも慌ただしい毎日に直面している人とそうでない人、更に 気を感じやすい人とそうでない人、若年層の人とそうでない人…などなど。


太極拳の理論と実践は両輪の関係にある。理論は実践しながら理解され、理解を深めた理論は更に実践で裏付けられる。その繰り返しが修行そのものだ。


ではなぜ人々がこのような年数のかかる難しい作業を自ら好んで続けるのか。これは修行者しか分からないかもしれないが、この難しい作業に常に成功報酬が伴うのだ。その成功報酬こそ修行者を魅了する源泉なのだ。 その都度の快感は然りながら、修行とともに健康が増進され武芸の腕が上がることは何よりのインセンティブだ。となると、目的地だけが目的ではなく 目的地までのプロセスも目的となり、修行自体が見返りのある楽しい追求となる。