そして誰もいなくなった
話を戻そう。
「キャッシュカードが見つからない」と連絡を受けたボクは、急ぎ足で出先から会社に戻った。しかし、どこを探してもキャッシュカードは見当たらなかった。気になるのは口座の中の現金の行方であるが、手元に通帳がないため、確認のしようがなかった。
しばらく、やるせない沈黙が続いた。
しかし、日払いの日給を受け取りにくるバイト君たちがいることに変わりはなかった。バイト君たちが日給を取りにくる、あと1~2時間でうん十万を用意しなければならなかった。会社は頼りにならなかった。ボクは親に頼るしかなかった。
たまたま近くにいた父親と会って、20万を用意してもらい、ボクの貯金と合わせてキャッシュをつくった。その日はなんとか凌いだ。
会社は被害届を警察に届け出た。事務所には鑑識も訪れ、ものものしい捜査が続いた。しかし、部外者の指紋は出なかった。複雑な気分だった。
被害にあったのはキャッシュカード2枚だった。3月17日、キャッシュカードがないとわかったその時には、キャッシュカードを停止した。しかし、口座の中身は小銭分しかなかった。3月17日の早朝に引き落とされていた。
後日、引き落としに利用されたATMの防犯カメラの映像を、警察署で見せてもらった。
安っぽいフルフェイスヘルメットの中にマスクを着用、会社の制服の防寒コートに身を包んでいた。後姿から、髪の毛を刈り上げていることがわかった。
1秒に2コマ程度の精度である防犯カメラの映像は、カラーでこそあれ、画素も荒く、人の仕草の特徴まではわからなかった。作業は30秒ほどで、スムーズである。暗証番号を知っている者の犯行だった。しかし、誰しも誰かも予想できぬまま警察署を去った。
GW前、「疑われた」とKが辞めていった。ボクは孤独だった。
つづく