「……天乃、なぜ友と今生の別れをしたというのに、悔いている?」
獏が天乃に問う。
天乃は静かに振り向く。
天乃が獏の助手になって初めてしたことは、矢張李々佳との結局は最後の話し合いと、
空徐伊湾へのグチつぼなどの残りの使い道のことだった。
天乃は李々佳と話すもの……
李々佳は空徐伊湾への想いで完全に支配されていた。
天乃への謝罪の1言もなく、ただ伊湾のことしか頭にない。
その為天乃は一切、李々佳へ手をさしのべることは止めてしまった。
次は伊湾と話すものの……
自分の母親が苦情承りますで今までしてきたこと、そして自分がグチつぼで人の心をもてあそぼうとしていたことなどとても許せることではなかった。
だから問答無用で天乃は伊湾のグチつぼを割って、強制的に時を戻すと共に伊湾の大事なものを代償として奪おうと思ったのだ。
母親は想定内……
しかし、まさかのそこに矢張李々佳も含まれていたとは、天乃にとって想定外なことだった。
李々佳のことも確かに許せないけれど、伊湾の母親同様亡きものにするつもりは全くなく……
なぜか罪悪感のようなものにさいなまれていた。
「ひとつを選択したといって全てがうまくいくわけでない、しかし間違えているかもしれないが、間違えてないかもしれない。
どちらにしても、空徐にとって母親がいることもそして、
いつまでも友達以上止まりにされたまま、がんじがらめになっていた矢張にとっては、これが解き放たれる最良なことだったのかもしれんな……」
獏は誰に言うのでもなく言って見せた。
「……ああ、そうか、そうかもしれない……」
少し、何かがストンと落ちた気がして、楽になったような気がする天乃。
「そうそう、言い忘れていたが、ヌシ、天乃は未だにグチつぼを使っていなかったが……
もしも、助手をある時辞めたくなったのならば、グチつぼを割るなり何か愚痴を消化して時を戻すことも可能だからな」
獏はさらりと言ってみせる。
「もしグチつぼを使ったら……時はどのくらい戻せるの?」
天乃は問うと獏は、
「……さあ、それは使った時の天乃次第だな」
その時、獏は珍しく目がニヤリと笑っていた。
房家天乃特別編、終わり
次回未定