その夕方はさすがの天乃も主婦業をボイコットして、寝室でふて寝する事態だった。
「夕飯は何にするの?」
夫の問いに答えない天乃。
「お風呂、水抜いてないし洗っていないじゃないか」
更なる夫の言葉にも無反応。
「洗濯物は~~!?」
取り込んでいないので夫がせっせと取り込む。
「ママ~~見て~これ~~」
娘の反応もスルー。
夫と娘は少し話し合ってふたりでやってきて、
「ごめんなさい」
と謝る。
「謝ればいろいろ今まで通りやってくれると思ったら、大間違いだからっ!」
ふたりに対して背を向けた。
「本当に悪かったよ、勝手に話しちゃって……」
夫が言うと、
「ママ、機嫌直して……」と娘。
「もうちょっといろいろ考えたいから、ひとりにさせてくれる?」
天乃がそう言うと、ふたりはあっさりひいて寝室から出ていった。
「あ~~もう、逃げたいな~~どこかに……」
その時、
「あ、こんな時にあのグチつぼか苦情袋を……」
ふと頭をよぎった。
その時、タイミング良く矢張李々佳(ヤハリ イイカ)から着信がある。
お決まりの空徐伊湾の報告だろう。
『……今度、空徐君、お母さんと競馬を見に行くんだって……』
李々佳は悲しむ感じではなく、伊湾に言われたままきっと淡々と言っていた。
「は?」
『お母さんと競馬を見に行くんだって』
律儀に繰り返す李々佳。
「それは判ったけど、何でお母さんと競馬に行くわけ? あんたはどうして誘われないの?」
天乃は何か伊湾とその母親の関係が気になりだす。
『ああー、そっかー、そうだねー、でもだって今回は空徐君のお母さんから言い出したらしいから……』
「ええ、競馬に行きたいって?」
『そう、何でも1度でいいから近くで見てみたいとかで……』
「であっさりふたりきりで競馬へ行くんだ?」
『そうみたい……』
「私も行きたいとか言った?」
『言わない……だって、興味ないもん』
興味ないもんって、そういえばこいつら遠出したことがなかった。
「はあ~~」
天乃は頭が痛かった。
こいつらのことも、自分の家庭のことも両方……
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