あーあ運転免許証、とうとうブルーになっちまうな~。
28歳、時東は運転免許証の更新で1時間の講習を受けて、今、新しい免許証を受けろうと待っているところである。
時東の運転免許証は今までずっとゴールドだったが、スピードオーバーで捕まり更新の際は判っているけれど、ブルーになってしまった。
心も何となくブルーだ。
そして1番最後尾……
やっと受け取る時だった。
受け取り窓口には、既に時東と窓口の係の人だけになっていて……
窓口の人は、何となくうつむき加減で顔が見えない。
なぜか少し薄暗い雰囲気にすらなる。
「……お待たせ、しましたぁ~~、こちら更新されましたブラック免許証です。
どんな不正なこともこのブラック免許証があればパスして切り抜けることが出来ます。
ただし、不正なことは故意にしないようにして下さぁい。
不正なことを無理矢理続けてしまうと、やがてブラックの帯の色がグレイに変わります。
グレイに変わってしまったら、あと数回で元の普通の免許証に戻ってしまうので、そうすると効力は消えてしまいます。
それでもブラック免許証のようなことを続けると、大変なことになりますので、くれぐれも気をつけて下さいね~~? では」
それだけ言うと、不気味な雰囲気を持った窓口の人は小窓をピシャッと閉めてしまった。
「え、ブラック……って? ちょっと!」
時東は我に返ると、その小窓は2度と開くことはなかった。
表の窓口もみんな閉まっていた。
「ええ~~、どういうこと? これ……」
時東は渋々、そのブラック免許証を持ち帰ることになってしまった。
そして、普通に運転して帰っていた時、脇道にそれてショートカットして、また公道に出た時。
しばらくすると後方から、
『前の車、ゆっくり左側に寄り車を停めなさい』
「ええっ!? ウソ、警察!」
バックミラーを見ると、後ろから覆面パトカーが迫ってきていた。
時東は言われた通り停車させる。
後方にも停めた警察官が降りてくると、
「今、公道に出る時に一時停止しなかったですよね、それにスピードも随分出ていたようですが……」
え、ウソだろう? 一時停止しなかったって……
時東は半ばパニック状態で。
「え、一時停止……してませんでしたか?」
うろたえながら言うものの……
「運転免許証見せて」
警察官は否応なしにしかも問答無用だった。
時東は今日、更新したばかりの運転免許証を仕方なく出すと、
「……ん……え? ブラック免許証ですか……」
警察官の態度は急によそよそしくなった。
「どうかしましたか?」
と時東。
警察官は慌てて時東の免許証を返すと、
「失礼しました、このまま行ってくれて構わないです」
と頭を下げた。
「え!? どういうことですか?」
「すみません、他に誰もいなかったので自分の点数を稼ごうと、無理矢理一時停止違反の切符を切ろうとしていましたが、
まさかブラック免許証をお持ちの方だとは、大変すみませんでした」
そう言うと、警察官はさっさと覆面パトカーに戻ると、乗り込んで時東の車を追い越して行く。
時東はポカーンとなる。
そして……
「何これ! すげえ! 何このブラック免許証! 警察官、無理矢理自分の都合で捕まえようとしたことも回避が出来るなんて!」
時東はひとり歓喜した。