昨日、ワールドシリーズの第3戦が行われて、延長18回の激闘をドジャースが制した。最後は、3番バッターのファースト、フリーマンの劇的なホームランでサヨナラ勝ちを収めた。打球の行方を確かめたチームのみんなはベンチを飛び出して思い思いに仲間と抱擁し合い、内野グラウンドは笑顔で溢れていた。

 そんな中、大谷翔平君と佐々木朗希君、そして日本語通訳の二人は、レフトポール際にあるブルペン方向に向かった。彼らも満面の笑みを浮かべながら、ブルペンから出てきた山本由伸君を出迎え、抱擁し、5人がひと塊りになって喜びあった

 普通であれば、彼らも内野グラウンド近くの仲間と一緒にいるはずだったのだが、ブルペンに向かったのには理由があった。

 延長18回でリリーフ投手を使い果たしたドジャースは、以降の回に投げるピッチャーがいなかった。そこでロバーツ監督が苦肉の策で相談したのが山本由伸君だった。17回にアイアトン通訳を交えて長いこと話をしたあと、アイアトン通訳と山本由伸君らはベンチ裏へと姿を消した。すれ違った佐々木朗希君の唇は「マジ?」と動いた。

 その後程なくしてブルペンに姿を現した山本由伸君は、肩を作り始める。2日前に105球で9回を完投したピッチャーが救援として投げる。前代未聞の起用だ。肩や腕には張りが残り、本来ならあと2日は筋肉と関節をを休めた方が良い。また、もしも投げる事になれば、この後の登板はあり得ない。ロバーツ監督は、第3戦を勝ち、その後第5戦で勝負を決める覚悟なのが透けて見えた。

 黙々と肩を作り、登板準備を終えた山本由伸君をブルペン方向に迎えに行ったのは、最大限の感謝とねぎらいの気持ちの表れだったのだ。

 ひとしきり喜び合った輪が解けて、山本由伸君は次々と他のピッチャー陣に抱きしめられ、ねぎらわれた。続いて監督が現れ、ハグをしたまま10秒ほども山本由伸君に感謝を伝えていた。野手陣も続き、まるでチームを救ったのが山本由伸君であるかの様にも見えるほどだった。

 山本由伸君はそれだけ凄いことをしたのだ。野球は気持ちだけで相手バッターを抑えられたり、気持ちだけで点数を取れたりする様な簡単なスポーツではない。しかし、気持ちが無ければ何一つ成し得ないスポーツであることは明らかだ。フリーマンがホームランを打てたのも、山本由伸君の覚悟に後押しされた部分もあっただろう。

 山本由伸君は監督の依頼を受諾し、力強くマウンドに上がる準備をした。その姿勢、気持ちに全てのチームメンバーが心を打たれたのだ。


 山本由伸君は昨日のブルペン入りで本当の意味でドジャースのエースになった。本当の意味でメジャーリーガーになった。


 彼とチームメートに感謝したい。勝利した事にではない。感動をくれた事にだ。