BS日テレで毎週月曜日10:00から放送されている『ドランク塚地のふらっと立ち食いそば』は、彼の柔らかい存在感そのままのおっとりとした楽しい番組だ。機会があれば是非とも見ていただきたいと思う。
昨日観た回では、千葉県我孫子市を訪れていた。我孫子市にある仕出屋やよい軒が仕出し屋の看板そのままに立ち食いそば店を6店舗だったか、開いている。駅のホームにある、いわゆる『駅中そば』である。
塚っちゃんは、まずその仕出し屋の工場を訪れた。そこでは、放浪の画家と称された山下清画伯が務めていたと言うのだ。知人から、仕出し屋には米があるから食いっぱぐれることはまず無いだろうと勧められたらしい。
塚っちゃんはもう永いこと画伯を演じている。川沿いの土手を歩き、寝転び、おにぎりを頬張り、空気と一体となった画伯の『放浪(たび)』の様子を描いている。
画伯は「星がきれいだ」とか「お月様が」などと呟いた翌日に放浪(たび)に出て、大体6ヶ月間は帰ってこなかったのだという。
1971年に49歳という若さで他界した画伯に塚っちゃんが会えるはずもないのだが、収録中に、ふらっと放浪(たび)に出てしまう画伯のことに触れられた時、思わず申し訳ありませんでしたと笑いながら頭を下げていた。
彼と画伯のみならず、過去の人となれば尚更のこと、演者が当の本人に会えることはほぼ無いと言っていい。それでも、塚っちゃんの中には画伯が宿っているのだと思わせてくれる一幕だった。
画伯を採用した当時は、現在の社長のお祖父さんが経営していたが、ある日画伯がいなくなっていることに気づき、総出で探したのだという。半年後にふらりと現れて「ただいま」と言った画伯に、先々代は「ただいまじゃないだろう!みんなどれだけ心配していたと思っているんだ!」と怒鳴ったという。それに対して画伯は「帰ってきたんだから、ただいまだ」と言って自分の部屋に入って行ったという。
お気づきだろうか。住み込みの従業員を心から心配して叱る経営者が現代の世の中にどれだけいるだろうか。画伯は、お米があるから、食いっぱぐれが無いからという理由でこの仕出し屋さんにとどまっていたのではないだろう。みんなと触れ合いながら、とてつもない、そして言いようの無い優しさに包まれていたのだと思う。だからこそ、放浪(たび)の後に帰ってくるのは当たり前に『ここ』なのだろう。
駅中そばでの収録で、わざわざやよい軒で食べるためだけに電車を乗り継いで来てくれたお客さんに対して、社長は「ありがとうございます」と深く頭を下げていた。
子は親を映し出す鏡だとよく言われる。人は人を見て育つとも。
はて。娘の周りの人たちは、鏡の中にどんな妻と私を見ているのだろう。