夏の日差しが眩しい
久しぶりに訪れた おじいちゃんの家
広い庭の片隅 緑豊かな木々の間に
白縄で編んだハンモックが掛けられている
風が吹き抜け 葉擦れの音が心地良い
この場所だけ 幾分涼しく感じられる

お昼前のひと時 蝉が鳴いている中
少年は ハンモックに体を投げ出し
うとうとし始めた

ガサゴソと物音が聞こえる
少年は 不思議に思いながら
ハンモックに座ったまま 体を起こした

すると モコモコと盛り上がる地面から
モグラがポンと顔を出した
少年に気配に気づいたモグラは
額のサングラスを目に下ろし 少年を見た

静かだから誰もいないと思ったんだけどな

僕 このハンモックで 眠ってたから

それじゃ分かんなくて当たり前か

サングラス? いつも持ってるの?

お天道(てんと)様が顔を出すと 眩しくてな

?ん? 顔を出したのは君だよ

?ん? まあ そうとも言うか

土の中って真っ暗なの?

そうさ 静かだし 誰も居ないんだぜ

少年は ふと地面を見つめ 溜息をついた

いいなあ 土の中って 静かなんだね

ここだって 静かだろ

ここはね でも学校じゃ皆んながうるさくて

友達ってやつだろ いいじゃねえか

でも 皆んなとあまり仲良く出来なくて

皆んなと?

うん

何で皆んなと?

分かんない 集まってわいわいしてる

少年は ハンモックの縄をギュッと握った

僕も 静かな 暗い世界に行きたいな

モグラは腕組みをして しばらく考えた
そして 地面を見たまま 話し始めた

やめときな 真っ暗なんだぜ
モグラには 学校もないし友達もいない
土の中で 殆ど一人で暮らしてる
寂しいとも辛いとも思ったことは無い
それは 俺がモグラだからだ

モグラは 空を見上げた

最近出会った女の子がいる
もうすぐ一緒になるんだ
とってもワクワクしてドキドキしてる
そして 子供を育てる それでいい
『皆んな』なんて 考えたこともない

また 考え込みながら 一息ついた

おまえはおまえの世界で生きるんだ
誰か一人でもいいから 探すんだ
ワクワクして ドキドキして ホッとする
そんな誰かを 探すんだ

少年は モグラの言葉を聞いていた
心に留めて 何度も繰り返して噛み締めた

さて 行くとするか

モグラは サングラスを額にずり上げた
そして 土に潜ろうとして 振り返った

いいか 一人でいいんだからな
絶対に どこかに いるんだから
忘れんなよ ファイトだ

目がちっちゃい

うっせぇ おまえがおっきいんだよ

モグラは 来た方向に戻る様に 潜った

少年は 木漏れ日を見上げて
眩しそうに 手のひらをかざした
もう一度 ハンモックに身を預けた
そして 眠った

蝉の声が次第に賑やかになってきた
少年は 静かにゆっくりと 目を覚ました
体を起こして 辺りを見まわした
土はモコモコと 盛り上がってなくて
モグラが顔を出した穴も 見当たらない

夢。。だったのだろうか
溜息をつきながらも 少年は穏やかだった
探してみようと思っていた
ゆっくりでいいから 必ず会えると信じて

少年は ハンモックから降りた
そして 空を見上げて
両手を開いて う〜んと大きく伸びをして
母屋の方へと歩き出した。