また来るから 必ずいるから
もし君も もしも 来られるなら
雨の中 仕事をして 風邪をひいても
父が逝き 自信が崩れても
母が逝き 優しさを失っても
必ず訪れた あの日の約束の場所
毎年毎年 君にだけ会いたくて
もう一度 かすかに触れたくて
今日は 暖かで 波も静かで
今年で もう終わりにしよう
全てが去り行き 全てが平たくなって
心は沈み 埋もれそうになる
その時 その刹那 時が止まる
君が現れた ずっと遠くから 儚げに
何十年も経ても尚
あの日と変わらぬ 細い影
ゆっくりと近づく 透き通る姿
戸惑う君を見つめながら 胸は高鳴る
来てくれた 覚えていてくれた
いつもと同じ たった一日の 約束の日
風がそよぎ 波が洗う 君との浜
僕は喜びと戸惑いに包まれながら言った
ずるいじゃないか 君だけ変わらない
彼女は 手のひらを胸の高さに掲げて
僕を柔らかく制して言った
おばあちゃんが 亡くなる前に話してくれて
おばあちゃんの約束を知って わたし
この浜での約束のこと それで わたし
もう何も見えなくなった
涙が溢れ出て その子も 景色も
全てのものが 歪んで消えてゆく
波が 幾度も行き来して
かもめが 何羽も通り過ぎて
。。僕は言った
お願いを聞いてくれませんか
その子も 涙を流していた
そして ゆっくりと 僕を見上げた
そっと抱きしめてもいいですか
僕はノッポさん 君は小さな花
それは あの日と そして今でも変わらない
そっと そっと 絹一枚を挟む様に
優しく ふわりと その子を包み込んだ
やっと 君に 会えた ありがとう
僕の心は 風の中に 波の音に 溶けてゆく
僕の命は 白く鮮やかな砂の中に 砂の中に