以前、バイクに乗っているとトリップメーターが少しずつ着実に距離を刻んでゆくのが好きだというようなことを書いた。僕は、何かが少しずつ動くとか、静かにその状態が続いていくというのが好きなのかも知れない。
例えば、空を流れる雲。青空の中にさまざまな形で浮かび上がる雲は、流れるにつれて形も変わってゆく。恐竜に見えていたと思ったら魚になったり。2羽の鳥が仲良く行進していたり、形が変わって走っているように見えたり。小学校から中学校にかけて屋根の上に登って傾斜に横たわって1時間以上眺めていることもあった。
夏になると、自分の部屋の窓を開け放して、庭の木が風になびいてサワサワと音を鳴らすのを聞くのも好きだった。やはり畳の上に寝そべり、目を閉じて『音』だけの世界に浸っていた。
雨の音。少し強めに降っている雨は屋根や庇(ひさし)や壁に当たり、ポツポツ、ザーザーと色々な音を鳴らす。その音を聴いていると煩わしさや悩んでいることから解放され、心が穏やかになっていくのを感じる。
そして、静かに流れる人の声。特にNHKのラジオから流れてくる声は、決して騒がず、一定のリズムで穏やかに語りかけてくれる。時には話の内容はどうでも良く、柔らかい声が流れてゆっくりと時間がすぎてゆく。窓の外から聞こえてくるご近所さんや子供たちの話し声も心地良い。
赤子は、体内で響いていた母親の胎動に似た音や振動を感じると穏やかになるという。
雲も、葉ずれの音も、雨の音も、そして静かな声も、どれも心穏やかに過ごすために必要なものなのかも知れない。
時にはゆっくりしましょう
目をつぶりながら。