つい先日、『孤独のグルメ』の特別編で、安堵するような、ぐっと胸にくるようなエピソードが織り込まれていた。鍵っ子で、学校から帰ってただいまと声に出すもののひっそりとした裕福な空間。夕食は宅配弁当で孤食が当たり前なのが感じ取れる。一方、奥さんに先立たれて、買ってきたお弁当でビールを飲み始める男性。周囲の人たちと関わるのが苦手なのが表情から伝わってくる。少年を斎藤汰鷹くん、男性を平田満さんが演じた。

 子ども食堂の前で、子供が鍵を落とし、男性が拾ってあげて、一瞬だけ触れ合う。子供はボランティア募集に惹かれて立て看板を写真に撮る。何日かして男性は一人の女性に声をかけられる。生前子ども食堂の手伝いをしていた男性の奥さんと一緒に手伝いをしていた彼女は、ぜひ一度子ども食堂へ来てみてくださいと。

 男性と子どもは子ども食堂の前で一緒になり、躊躇していた男性は子どもに声をかけられて建物の中に誘(いざな)われる。手伝いをしてその後一緒にご飯を食べて。男性は無口ながらも心がほぐれていく。向かいには、納品でお邪魔しただけなのに手伝いに巻き込まれてしまった、松重豊さん演じる五郎さんも。三人が、静かに美味しいものを食べるシーンが象徴的で救われる。


 人は『その一歩』を踏み出すのが難しい。新しい趣味であれ、仕事のことであれ、好きな人に気持ちを伝えるであれ。『その一歩』を踏み出すことで何かが微かに変わるかもしれないと感じつつも、一瞬ためらい、やがて諦めて身を翻(ひるがえ)し『その一歩』を踏み出せない。


 僕だってそう。なかなか踏み出すことができない。『その一歩』が目の前にあるのは分かっている。踏み出した時に開けてゆく新しい世界も。


 みなさん、ゆっくり行きましょう。